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母親業は「苦行」か【おやゴコロこゴコロ②】

みなさん、こんにちは。おやこ心理相談室の臨床心理士、佐藤です。

私は日頃から、「母親」という存在の重要性をもっと世間に知ってもらう必要があると感じています。

他のお仕事同様、「母親業」という仕事をもっと社会が理解して、適切に評価されるべきだと思っています。

もちろん実際には「母親業」という職業があるわけではありません。また、頑張ったからといって金銭的報酬や昇進・昇格なども一切ありません。

しかし、とんでもなくタフな仕事であることは、これを読んでいるママの皆さんが、もっとも感じていることではないでしょうか。

母親業は「ギブアンド“ナッシング”」

ママ 赤ちゃん 抱っこ
ママの一日の例
  • 朝早く起こされる
  • 朝ごはんを作る
  • 旦那さんを送り出す
  • 子どもと出かける準備をする
  • 子どもを連れてお散歩に行く
  • 昼食を適当にすませる
  • 子どものお昼寝中に家を少し片付ける(家中おもちゃだらけ)
  • 洗濯物を取り込む(たたんだ洗濯物は子どもにグチャグチャにされる)
  • 献立を考えて夕食を作る(その間子どもは大泣き)
  • お風呂に入れる(自分は3分で入る)
  • パパ帰宅(パパも仕事でぐったり)
  • 明日の準備をする
  • 絵本を読みながら寝落ち(夜のミルクで3回起きる)
……

このように、ママは赤ちゃんに一日中与えるだけ与えます。時間も、体力も、そして愛情も。一方で、赤ちゃんは、ママから奪っていくばかり

自分では何もできない年齢の赤ちゃんは、ママから“奪う”生き物なのです。考えることも話すことも仕事も趣味も人生も。

ママは、まるで自分の意志を持つことすら許されず、毎日毎日子どもに振り回されて、召使いのように生きているような気分にすらなることもあるでしょう。

ルールを持たない小悪魔たちは、やってもやってもきりのない暗くて長いトンネルへと母親を追い立てていくのです。

そして、なかには、一人で子どもを育てているママもいるし、お仕事に復帰されているママもいますよね。また、ママ友とのお付き合いや、保育園等の役員の仕事などが回ってくることもあり、本当にやることが山のようにあるんです。

そのうえ、世の中には母親業を「女の喜び」のように錯覚して、子育てを妻や嫁にだけ負担させる人もいます。

最近は少なくなってきましたが、「子どもの夜泣きがうるさい!何とかしろ!」とか「あなたの子育てが悪いのよ」と責任を全て母親に押し付ける家庭の体質も根深く残っています。

母親業というのは、自己犠牲の上に成り立つ「苦行」という言葉で言い換えることができるのかもしれません。

「子どもが憎らしい」ことは、必ずしも「悪」ではない

赤ちゃん いたずら こぼす

このように「苦行」とも思える母親業をこなしていくなかで、子どものことをときどき愛おしく思うだけでなく、ときどき憎らしく思ってしまうことは、ごく「自然な感情」なのです。

赤ちゃんに対して「憎たらしい」と思うことがあっても、「かわいらしくてたまらない」と思ったときの感情を思い出せれば、問題ありません。

一方で、「わが子を一度もかわいいと感じたことがない」というママにも仕事柄、出会うことがあります。そういったママたちに見られる共通点は、ママ自身が子どものころから「いい子」を求められてきたということです。

「きちんとしなければいけない」と言われ続けてきた人は、大人になり母親になってもそれを必死に続けようとするのです。

このようなママたちには、自分の心のなかの「子どもが憎らしい」という感情を受け入れられず、一方で「いいお母さんにならなきゃ!」「いい子を育てなきゃ!」という想いが強すぎる人が多くみられます。

その結果、自分を激しく責めたて、気がついたときには子どもに手を上げていたというケースも珍しくありません。

ここにも、「まあ、自分はそれなりに頑張っているし、この子も元気に育っているからいいや」と思える「ほどよい母親」メンタルがほしいところです。

「苦行」が育てる子どもの力

ここまで散々、乳児期の母親業について「苦行」と表現してきました。今どんぴしゃな時期にいるママのなかには、その表現に共感している人もいるかもしれません。

ただ、この苦行は、子どものこころの発達プロセスにおいてはなくてはならないものなのです。

この苦行を通して子どもが身に付けられるのが、「ママを信じられる力」です。ママを信じられる力は、子どものこの先の人生で重要な役割を持つ、「人を信じる力」の基礎になります。

そのため、ママが「苦行」に感じていることは、実は子どもにとっても命がけ。子どもは子どもで、親に求めて求めて、求め続ける必要があるということです。

私は、これまでたくさんの子育てを見てきました。その経験から、子どもを育てる長い道のりにおいて、いつかどこかのタイミングで必ず、この苦行をやらなければならない時期が必ず来ると感じています。

このプロセスをスキップして「人を信じる力」を身に付けさせようとしても、うまくいかないことが多いようで、子ども達はどんなに大きくなっても必ずこのプロセスに戻ってきます。

しかも、しかるべきときに身に付けることができなかった場合、更に莫大な時間とエネルギーを費やすことになります。

乳児期の苦行は長くても2年くらいですが、思春期や青年期後にこの「人を信じる力」を身につけさせる苦行をするとなると、10年単位でやっても終わることが難しいほどです。

そのため、この「苦行」は、乳児期がベストなタイミングだと思っています。

乳児期に「苦行」のど真ん中にいるママたちは、むしろ一番理想的な子育てをしていると言ってもいいかもしれません。

赤ちゃんを自分のコピーにしないために

赤ちゃん イス はいはい

女性は、子どものころに親から受けた体験をもとに、子育てに突入していきがちです。そのため、自分が育った家庭と同じような親子関係を否応なしに築いてしまうことがあります

「甘えさせてもらった体験がないので、子どもの甘えさせ方が分からない」とか、「遊んでもらったことがないので一緒に遊べない」とか、「自分が厳しくされて育ったから、厳しくするのが当然だと思っていた」というのはよく聞きますね。

これは、「世代間連鎖」と呼ばれる現象で、やり方が分からなかったり、他と違っていたとしても、一概にお母さん一人に責任があるわけではないと私は思っています。

しかし、子どもの様子や日々の生活の中で、「なんか、ちょっとヘンだな」と子育てに違和感を感じることがあるかもしれません。もし違和感を感じたら、勇気を出して保健センター、子育て支援センター、こども園・保育園などの保育施設、ママ友や先輩ママなどに「確認」してみてください。

今、ママたちが感じている違和感をもとに、世代間連鎖を早い段階で断ち切ることが、結果的にママにとっても子どもにとっても、「自分らしく」ラクなおやこ関係を築くことにつながるのです。

その「違和感」を感じたタイミングは、もしかしたら世代間連鎖を断ち切る大きなチャンスかもしれませんね。

乳児期の「苦行」=子育て上手の証

母親業は与えて与えて与え続ける「苦行」です。

しかし、一方で乳児期の苦行はベストタイミングなので、この時期の子育てで苦しい思いをしているのは、子育てが上手く進んでいる証拠でもあるのです。

逆に、子育てで一つも苦労をしていないという場合は、他の誰かがどこかで我慢している可能性があり、数年後、数十年後に手痛い「しっぺ返し」が待っているかもしれません。

日頃から子どもの様子をよく見て、子育てに少しでも違和感を感じている場合は、勇気を持って確認してみましょう。

確認作業は早ければ早いほど、後がラクになりますよ。

ママたちが少しでもラクに、自由に、のびのびと日々の子育てに臨めるように。

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佐藤 文昭

佐藤 文昭

さとう ふみあき


おやこ心理相談室 室長。カリフォルニア臨床心理大学院臨床心理学研究科 臨床心理学専攻修士課程修了。米国臨床心理学修士(M.A in Clinical Psychology)。精神科病院・心療内科クリニックの医療現場や群馬県スクールカウンセラーの教育現場での臨床経験を生かし、幼児・児童、思春期から成人に至るまで幅広い問題を扱っています。精神分析的心理療法を中心として、心理検査、知能検査なども実施。また、個人だけではなく、家族というより広い視野を持って取り組んでいます。