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赤ちゃんが「泣く」大切な意味【おやゴコロこゴコロ④】

みなさん、こんにちは。おやこ心理相談室の臨床心理士、佐藤です。

毎日の育児、本当にお疲れ様です。赤ちゃんが安心してすくすくと育っているのは、ママたちが頑張っているおかげです。日頃から育児を頑張っている自分をたくさん褒めてあげて下さい。

さて、今回は、赤ちゃんが「泣く」ことに関して、少しお話してみようと思います。

毎日赤ちゃんと一緒の生活の中で、赤ちゃんが泣くことに関して、「なぜこんなによく泣くの?」「ウチの子は他の子よりよく泣くなぁ」と思ったことはないでしょうか?

もちろん、なかにはあまり泣かない赤ちゃんもいて、あまり苦労せずに子育てしているママもいます。しかし、多くのママは、赤ちゃんの泣き声をストレスに感じたことが一度や二度、もしくはそれ以上、あるのではないでしょうか。

電車やバスの車内など人が多い場所や、夜の静かな時間帯に赤ちゃんが泣きだすこともありますよね。そんなとき特に、周りの人に迷惑だから「何とかしなきゃ」と責任を感じ、焦ってしまうこともあるでしょう。

赤ちゃんは、あの小さな体からは想像もできないくらいの大きな声で、体中のエネルギーを使って顔を真っ赤にして一生懸命に泣きます。

だから、「赤ちゃん」って言うんですね。

「泣くこと」は赤ちゃんが唯一できる意思表示

赤ちゃん 泣く 新生児

どうして赤ちゃんは泣くのでしょうか。

赤ちゃんは自分では食べることも、動くことも、しゃべることもできない、とても無防備な状態で生まれてきます。

そんな赤ちゃんにとって唯一できるのが、「泣くこと」です。

生まれてすぐに、元気に泣く、あの産声を聞いたときに、どこかほっとした気持ちになったのを覚えていらっしゃる方もいるかもしれません。

逆に、泣き声が聞こえなくて、「どこか悪いんじゃないか」と心配になったママもいるでしょう。

赤ちゃんは泣くことで、自分の安否を知らせたり、自分の希望を伝えたりと、周囲にメッセージを伝えようとしているのです。

泣くことしかできないけれど、その泣き声一つにいろんな意味が含まれているのですね。

赤ちゃんはおっぱいを自分の一部だと思っている

生まれてすぐの赤ちゃんは、受身的で、何でもされるだけの状態です。

ママ(養育者)に100パーセント依存していないと生きていけません。

また、この時期の赤ちゃんは、「ママ」という存在と「おっぱい」は別のものだと思っています。

少し大きくなって手が動かせるようになると、よく自分の手をじ~っと見つめることがあります。これは「手」というものが、自分の「腕」や「身体」と繋がっていて、思い通りに動かせるんだということを学習している瞬間なのです。

一方で、赤ちゃんは、おっぱいは自分のモノ、自分の一部と思っています。だから、お腹が空いたらおっぱいがすぐ口に来るのは当たり前のこととして認識しています。

しかし、いくらママが赤ちゃんにつきっきりでも、トイレに行っているときなどはすぐに授乳できないこともありますよね。

赤ちゃんは、お腹が空いたらすぐにおっぱいが飲めるという当たり前のことが、当たり前に行われないことで、生まれて初めて「お腹が空く」という感覚を感じるのです。

初めて感じる「お腹が空く」という感覚は、赤ちゃんにとってはものすごく「苦痛」なこと。

その苦痛を自分だけで抱えることができず、それをなんとか体外に発散しようとして、泣くのです。

おむつが濡れたときの不快感や、知らない場所・人に対する不安感などで泣くのも同じ理由です。

手足・耳・目・鼻などの感覚器官が発達するにつれて、「おっぱい」が「ママ」とつながっていること、「ママ」は自分とは違う存在であることを理解できるようになります。

赤ちゃんが乳首を噛む理由

授乳 赤ちゃん

授乳中に乳首を噛まれて痛い思いをされたママもいるかもしれません。

これは、歯が生えてくる過程で口の中がかゆいという理由もあります。しかし、乳首を噛むことは「ママが痛がっているからおっぱいはママのものなんだ」と学習することにも繋がっているのです。

このように、赤ちゃんも成長過程で、初めての体験をしたり、いろんなことを試したり、上手くいかなくて腹を立てたりとたくさんのことを学習し、経験していきます。

よく泣く赤ちゃんほど、健全に育つ

赤ちゃんが泣くことの一番の意味は、「自分の望みを叶えてほしい」ということです。

例えば、

  • おなかがすいた
  • おむつが濡れて気持ち悪い
  • 抱っこの感じが違う
  • ママの匂いじゃない
  • 痛い
  • 怖い
  • 不安
  • びっくりした
などの、苦痛・不安・不快・恐怖といった感情を自分の中に抱えていられないので、それらを何とか体の外に出して「自分を安心させてほしい」と自己主張しているのです。

そのときにママが近くにいて、自分の訴えに気がついて手を差し伸べてくれることで、赤ちゃんは自分の不安をママが解決してくれるんだと学習します。

ほとんどのママたちはこれらのことを、普通に過ごす中で意識せずにやっています。

しかし、泣いても泣いても自分の苦痛を取り除いてもらえなかったり、誰も関心を持って接してくれなかったら、泣くことを諦めて泣かない赤ちゃんになってしまうこともあります。

泣くことを諦めて育つと、不快感や不安、怒りという感情を適切に処理できず、自分の中にとどめておくことを学習してしまいます。

そのような場合、「誰も助けてくれない」、「自分は一人ぼっちだ」という感覚が幼くして根付くことになり、母親、ひいては人に対する信頼感を得るチャンスを失ってしまいます。

これは、とてもさみしいこと。

以前にも書きましたが、赤ちゃんは自分の望みを叶えてもらうことで、「母親を信じる力」を育てていきます。

「自分の望みを叶えてくれるこの人は信用してもいいんだな。この人には甘えてもいいんだな」と学習し、母親との関係を強くゆるぎないものにしていこうとします。

ママがいくら抱っこしても泣き止まないのに、パパが抱っこするとすぐ泣き止む、というケースもありますよね。これも、ママにしっかり甘えられている証拠です。

ママが忙しくてすぐに手をかけてあげられなくても、泣き続ける赤ちゃんというのは、それだけ自分の望みを諦めずに訴え続けることができる、根気強い赤ちゃんだと言い変えることもできます。

そして、よく泣くというのは、それだけ赤ちゃんとの間に信頼関係を築くチャンスがたくさんあるということでもあります。

赤ちゃんにたくさん泣かれると、ママとしては大変だと思いますが、発達的に見れば間違っていないし、信頼関係が無事に構築されつつあるという証拠なんですよ。

ママを信じたいから赤ちゃんは泣く

赤ちゃん 泣く 後追い

赤ちゃんが泣くのは、「不快や苦痛を何とかしてほしいから」です。

「ママは自分と同じ、自分は万能だから何でもできるはずなのに、なんでこんなに苦しいの?」と必死で自己主張しているだけで、決して、ママを困らせようとか、ママを苦しめようとして泣いているのではありません。

疲れているときや、精神的に追い詰められているときは、赤ちゃんが自分を困らせようとしているから泣いているんだ、泣き止ませることもできない私は母親失格だ、なんて思うときもあります。

そういうときは冷静に考えることができないかもしれませんが、後で落ち着いて考えれば、赤ちゃんに相手をコントロールできる能力はまだ備わっていないことが理解できると思います。

よく泣く赤ちゃんを育てるのは並大抵のことではありません。しかし、泣かない赤ちゃんのほうがいい、と思っているとしたら大間違いです。

赤ちゃんの唯一の仕事である「泣く」ことを一生懸命にこなしている赤ちゃんが、やはり一番赤ちゃんらしく、その後も問題なく育っていくのだと思います。

しっかり泣く赤ちゃんを育てているママは、ママがきちんと子どもの主張に向き合っている証拠ですし、赤ちゃんが情緒豊かにしっかり自己主張している証拠。

多少落ち込むことがあっても、「ウチの子はよく泣くから大変なんだけど、こころの成長的には問題ないんだって!」と胸を張って、今後の育児に臨んでください。

赤ちゃんがしっかり泣いて、自由に自己主張できることが受け入れられる社会になることを、切に願っています。

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佐藤 文昭

佐藤 文昭

さとう ふみあき


おやこ心理相談室 室長。カリフォルニア臨床心理大学院臨床心理学研究科 臨床心理学専攻修士課程修了。米国臨床心理学修士(M.A in Clinical Psychology)。精神科病院・心療内科クリニックの医療現場や群馬県スクールカウンセラーの教育現場での臨床経験を生かし、幼児・児童、思春期から成人に至るまで幅広い問題を扱っています。精神分析的心理療法を中心として、心理検査、知能検査なども実施。また、個人だけではなく、家族というより広い視野を持って取り組んでいます。