みなさん、初めまして。おやこ心理相談室の臨床心理士、佐藤文昭です。
今回から「おやゴコロ こゴコロ」の連載を担当させていただきます。この連載では、子ども心理の専門家としての立場から、乳児期の子どもたちとそのママたちの心を軽くし、もっと子育てが楽になるようにお手伝いさせていただきたいと思います。
どうぞよろしくお願い致します。
最初は誰もがママ初心者。「自信がないこと」に自信を持とう
女性は赤ちゃんが生まれるとすぐに「母親」としての生活がスタートします。ところで、学校などの場所で「子どもの育て方」について学んだことはありますか?
保育の専門学校に進んだ方以外、ほとんどの人は「ない」とおっしゃることだと思います。妊娠生活から赤ちゃんを産むだけでも大変ですよね。それなのに、「一人の人間を育てる」というとても尊く、責任のある仕事を、何の予備知識もなく自分の受けた体験だけで突然求められることになるのです。
それが、普通のママたちのスタートラインです。
しかも、手ごろなガイドラインもマニュアルもありません。そのため、最初は右も左も分からず、子ども達の一挙一動に振り回されてしまうのは当然です。
だから、子育てに「自信がない」「不安だ」と思うことは、普通なことなのです。
まずは、「子育てに自信がないこと」を受け入れて、「子育てに自信がないこと」に自信を持ちましょう!
乳児期の体験が人間の基礎を作る
突然始まる子育てですが、実は、人間の人格形成において最も大事な時期がこの乳児期なのです。

赤ちゃんは真っ白な状態で生まれてきて、すぐにママとの関係が始まり、その関係の中でたくさんのことをまねて、学習し、身に付けていきます。
人に対して信頼感や安心感を持つか、不信感や不安感を抱くかは、この乳児期に母親との関係の中で得た体験がベースになって形成されます。
自分では何もできず、相手に頼るしかない乳児期だからこそ、相手に対する安心感、もしくは不信感が育ちやすく、記憶・感覚の奥深くに刻まれていくのです。
そして、その後の人生において、どんなにいい学校に入っても、どんなにいい会社に入っても、どんなにお金持ちになっても、この時期の人格形成を覆すことはできません。
人格形成の最も大事な時期が、赤ちゃんが生まれてからすぐにやって来ていることを、是非覚えておいてください。
自分を大切に思うこころ
では、どういう気持ちで子育てに臨むとスムーズにいくのでしょうか。
私が日々の臨床活動でいろいろと見てきた中で、子どもを育てるうえで、お母さんたちに一番持っていてほしいと思うのは、「ママ自身が自分を大切に思うこころ」です。
乳児期(生まれてから1歳半くらいまで)の赤ちゃんは、大人のように話せないため、気持ちをうまく表現できないことも多いのですが、お母さんのこころの状態にとても影響を受けます。

ママ自身が、
- 自分のことが好きだ
- 自分にやさしくできる
- 困ったときに人に頼れる
- 自分も相手も価値ある存在だと思える
一方で、ママが、
- 自分が嫌い
- 母親失格だ
- 困っても一人で何とかしなきゃ!
- 私なんて価値のない存在だ!
だからといって、「ママはいつも笑顔でハッピーであるべき!」とは言いません。子育てをしていると、周りの人にいろいろ言われて迷ったり、落ち込んだり、不安になったり、分からないこと、困ること、苦しいこともたくさんあります。初めてだから、それは当然のことです。
私が言いたいのは、そんなときでも自分を大切にする気持ちを忘れないでほしいということです。例えば、苦しいときに旦那さんに素直に苦しいと言えるとか、困ったときに周りの人に頼れるとか、自分の気持ちを無理に我慢しないとか、そういうことです。それだけで充分自分を大切にしていることになります。
「ママであること」は誇るべきこと
自分を大切に思うこころは、難しい言葉で「自尊心」と言います。
「自尊心」と聞くと、プライドが高く、ナルシストな人をイメージするかもしれませんが、どちらかと言うと、「自分の存在に対する安心感」に近いかと思います。
「私は、このままでいいんだ。このままで充分よくやっている」と自分を大切に思う気持ちです。
ママとパパが適度に自尊心を持って、日々の育児に臨むことができれば、自尊心の高い子どもたちが育つのは間違いないと思います。
たとえ障害や病気があったとしても、赤ちゃんを産んだこと、命をつないだことは、間違いなくそれだけで素晴らしいこと。また、ご家族にとっても社会全体にとっても喜ばしいことです。
だから、ママになった自分を自分でたくさん褒めてあげてください。

あなたのもとに生まれてきてくれたということは、赤ちゃんがあなたを母親として選んでくれたということです。
子どもが選んでくれた「あなた自身」を大切にしていきましょう。
そして、「ママは自分を大切にしているよ。だから、あなたも自分のことを大切にしてね」とたくさん声をかけてくださいね。
「ほどよいお母さん」が家庭を救う
さてさて、知識もなく経験もない子育てワールドに突然迷い込んできたような状態のママたちが目指すべきお母さんとは一体どんなお母さんなのでしょうか。
「完璧に全てをこなす母親」?
「一流の学校を目指すお受験ママ」?
「子ども第一でなりふり構わないモンスターママ」?
食事はいつも手作り、部屋はいつもきれい、子どものしつけや教育も完璧、ママ友との付き合いも全てパーフェクト!
そういった高い意識で母親業をこなすことができればいいかもしれませんが、実際は時間的にも体力的にも余裕が持てず、難しいことも多いと思います。
イギリスの小児科医・精神分析医のドナルド・ウィニコットという先生は「ほどよい母親(Good Enough Mother)」であることが大切であると言っています。
「ほどよい母親」とは、完璧である必要は無い、少しミスするくらいの母親がちょうど良い、という意味です。これは、ちょっとゆるいくらいでいい、間が抜けたところがあっていい、と言い換えてもいいでしょう。
失敗したときに「完璧にできない私はダメだ」と自分を責めるのではなく、「完璧にできなくてもいいや!」「これくらいでいっか!」と思えるくらいがちょうど良いのです。
そして、そう思えることは同時に「自分を大切にしている」ということでもあるのですね。
「育児沼」で溺れないために
なんせ、子どもを育てるということは、分からないことばかりで、怖いし不安だし、周りは気になるし、自信なんて持てないのが普通です。
乳幼児の赤ちゃんを育てるということは、ママにとって、ぐっすり眠れる夜を失い、肉体的にも精神的にも、とても大変な日々を過ごすということです。
しかも、こんな大変な時期が、同時に赤ちゃんにとって人間の基礎を作る大切な時期なのですね。
それでも、ママたちは必死にもがき、毎日奮闘していることだと思います。大変な仕事を本当によくやってらっしゃいます。
この時期の頑張るママたちに、是非こころに留めておいてほしいことは、
1. 子ども達を愛しみ育てる中で、自分のことも大切にしてほしいということ。
2. 子どもが元気に育っていれば、少しのミスはすぐに修正すれば大丈夫くらいのほどよい母親で充分だと思えること。
乳児期のお子さんを抱え頑張っているママたちが、こころをほぐして、肩の力を抜いて、あまりこだわりすぎずフレキシブルにこれからの育児生活に臨んでいけることを願っています。

佐藤 文昭
さとう ふみあき
おやこ心理相談室 室長。カリフォルニア臨床心理大学院臨床心理学研究科 臨床心理学専攻修士課程修了。米国臨床心理学修士(M.A in Clinical Psychology)。精神科病院・心療内科クリニックの医療現場や群馬県スクールカウンセラーの教育現場での臨床経験を生かし、幼児・児童、思春期から成人に至るまで幅広い問題を扱っています。精神分析的心理療法を中心として、心理検査、知能検査なども実施。また、個人だけではなく、家族というより広い視野を持って取り組んでいます。