先日、「赤ちゃんが寝ている側で母親が除光液を使ってネイルを落としていたところ、赤ちゃんが中毒症状を起こした」という報道がされました(※1)。今回は、なぜ、そのような痛ましい事故が起こってしまったのか、原因や症状、そして対策についてご説明します。
赤ちゃんが嘔吐をくり返し、異変に気づく
赤ちゃんのおっぱいを吸う力が極端に弱くなり、同時に顔色が悪く嘔吐も繰り返したことで母親が異変に気づき、病院を受診したことでこの痛ましい事故は、発覚しました。
その前の晩、赤ちゃんを床に寝かせ、同じ部屋で母親が除光液を使ってネイルを落としていました。
赤ちゃんは12時間眠り続け、起きたときにはぐったりとした状態で、おっぱいを吸う力も弱くなっていたそうです。
病院では血液検査などが行われ、その結果、赤ちゃんが「アセトン中毒」であることが判明しました。
除光液に含まれるアセトンは空気より重い
なぜ、このような痛ましい事故が起きてしまったのか、原因についてご説明します。
アセトンは中毒事故が多い化学物質
アセトンは揮発性が高く(蒸発しやすい)、大量に吸い込むと以下のような症状を発症します(※2)。
- のどの痛み
- せき
- 錯乱
- 頭痛
- めまい
- 嗜眠(しみん:強い刺激を与えないと覚醒しない状態)
- 意識喪失
生後2ヶ月の赤ちゃんが12時間も眠り続けたのは、嗜眠の状態に陥っていたことが考えられます。
アセトンは空気より重く、床に溜まる
アセトンは空気より重く、地面に沿って移動する性質を持っています。
そのため、床に寝ていた赤ちゃんは、アセトンを含む空気をひと晩中吸っていたことになります。
「再現実験で、床に座った母親の鼻の高さ(70cm)より、床に寝ている赤ちゃんの鼻の高さ(10cm)では13倍の濃度のアセトンが検出された」という報道もありました。
【対処法】ネイル除光液で中毒が疑われたら
家庭内で起こる中毒事故のうち、除光液・マニキュア液を原因とした事故は少なくありません。
少し目を離した隙に子供が誤飲してしまったり、うっかり瓶を倒して赤ちゃんの肌や目にかかってしまうというケースが報告されています。
ここでは、除光液・マニキュア液での中毒事故の対処法をご説明します(※3)。
除光液・マニキュアを飲んでしまったら
赤ちゃんや子供が除光液・マニキュアを誤飲したときは、吐かせてはいけません。
吐かせると除光液やマニキュアが気管に入り、肺炎を引き起こす危険性があります。得に、除光液は粘り気が少ないため気管に入りやすく危険です。
除光液は1ml、マニキュアは3mlでも飲んでいたら、速やかに病院を受診してください。
除光液の蒸気を吸ってしまったら
赤ちゃんや子供が除光液(アセトン)の蒸気を吸ってしまったら、速やかに空気のきれいな場所に移動させ、部屋を換気して様子を見ましょう。
その際、アセトンは空気より重く床の近くに貯まりやすいため、ベッドなど、ある程度高い場所に移動するようにしたほうがよいでしょう。
除光液やマニキュア液が目や肌に付着したら
除光液やマニキュアが赤ちゃんや子供の目に入ったら、流水で10分以上かけて、しっかり洗い流します。
肌についた場合は、石鹸を使ってよく洗い、流水でしっかり流します。
蒸気を吸った場合、目や肌に付着した場合のいずれも、白目が赤い、皮膚が赤く腫れるなど赤ちゃんや子供にいつもと違う様子が見られたら、速やかに受診するようにしましょう。
また、その他の科学物質などを誤飲するなどして対処に迷う際は、中毒110番・電話サービスを利用するのも方法の一つです(※4)。
中毒110番・電話サービス (一般専用)
■大阪中毒110番(365日 24時間対応)
072-727-2499(情報提供料:無料)
■つくば中毒110番(365日 9時~21時対応)
029-852-9999(情報提供料:無料)
■たばこ誤飲事故専用電話(365日 24時間対応、自動音声応答による情報提供:一般向け)
072-726-9922 (情報提供料:無料)
※電話の掛け間違いのないように、電話番号をよく確認のうえ、お問い合わせください。
中毒事故は一瞬の隙をついて起こります
「家庭内での中毒事故は、いずれも保護者がほんの一瞬目を離した隙に発生しています」と、小児科医の武井先生は言います。
「小さな子供は、手にしているものが『危険』かどうかの判断はつきません。また、上にお子さんがいる場合、上のお子さんが保護者が使っているものに興味を持ち、手にしてしまうこと珍しくありません。また、きょうだいがいると目が届きにくくなります」
除光液には、アセトンを含まない商品も販売されています。除光液を使う必要がある場合は、アセトンフリーの商品を選ぶことも検討しましょう。
日頃から、危険なものは赤ちゃんや子供の手が届かない場所に収納している家庭がほとんどかと思いますが、この機会に再度、家庭の中を見直してみてはいかがでしょうか?
記事監修:武井 智昭
小児科/高座渋谷つばさクリニック