日々育っていく赤ちゃんと過ごすなかで楽しみなのは、その発達を見ることですよね。最近では、「寝返り いつから」や「はいはい いつから」などとインターネットで調べれば、それらの発達が赤ちゃんに現れる時期がすぐにわかります。
しかし、自分の赤ちゃんの発達が、検索して出てきた結果よりもゆっくりめな場合、心配になってしまうママ・パパも多いのではないでしょうか?
実際「寝返り」や「はいはい」などの発達が、目安の月齢よりもゆっくりな場合、何か良くない影響はあるのでしょうか?ママたちに代わって、ninaru baby編集部が小児科の先生に聞いてきました。
【そのギモン、私が答えます】
小児科/高座渋谷つばさクリニック武井 智昭
日本小児科学会専門医。2002年、慶応義塾大学医学部卒。神奈川県内の病院・クリニックで小児科医としての経験を積み、現在は神奈川県大和市の高座渋谷つばさクリニックに院長として勤務。内科・小児科・アレルギー科を担当しています。感染症・アレルギー疾患、呼吸器疾患、予防医学などを得意とし、0歳から100歳まで「1世紀を診療する医師」として診療を行っています。
育児サイト・本の「発達の目安」はどれくらい信用するべき?
ー多くの育児サイトや育児本で、「寝返りは生後5ヶ月頃」「はいはいは生後8ヶ月頃」のように発達の目安が書いてありますよね。しかし、周りの赤ちゃんを見ていると、あまり当てはまっていないような気がします。
武井先生
そうですね。「○ヶ月頃」と書かれていても、本当にその頃にできるようになる子もいれば、そこから数ヶ月先にできるようになる子もいますから。
ーなぜそんなにばらつきが現れるのでしょうか?
武井先生
赤ちゃんの発達は個人差が大きいんですよ。「○ヶ月頃」という発達の目安はあくまでも「目安」でしかないです。発達の内容によっては、体格によって時期が大きく左右されるものもあるんですよ。
ーそうなんですね。ちなみに「体格によって大きく時期が変わる発達」とは、どのようなものでしょうか?
武井先生
「寝返り」などは特に赤ちゃんの体格に大きく影響されますね。寝返りは全身の運動なので、大柄な赤ちゃんに比べると、小柄な赤ちゃんの方が、寝返りが早く身に付く、ということもあります。
ー体が大きい分、動かすためのエネルギーも多く必要になるんですね。
武井先生
そうなんです。10kgのものと1tのもの、動かすのにどちらのほうが大変かをイメージしてもらえば、わかりやすいかもしれません。
はいはいより先につかまり立ちする赤ちゃんも
武井先生
発達といえば、最近、はいはいよりも先につかまり立ちをする赤ちゃんが、増加傾向にあると感じています。乳児健診で赤ちゃんの発達を見ていると、そう思いますね。
ーそうなんですか!?知らなかったです。なぜそのような赤ちゃんが増えているのでしょう?
武井先生
はいはいするには、いわゆる体幹と呼ばれるおなかや背中の筋肉が必要です。はいはいを超えてつかまり立ちをするということは、つかまり立ちに必要な手や足の筋肉の発達が、体幹の筋肉の発達を追い越しているのかもしれません。
ー昔より現代にそのような赤ちゃんが多いのは、手を使うおもちゃが増えたり、昔より狭く、家具が多い部屋で育児を行っているからでしょうか?
武井先生
具体的に何が原因、とはいえませんが、そのようなことも理由のひとつかもしれませんね。
はいはいしない「シャフリングベビー」
武井先生
発達の順序が入れ替わる赤ちゃんのなかでも特に、はいはいをせずにお尻をつけたまま移動する赤ちゃんのことを「シャフリングベビー」と呼ぶんですよ。
ーそうなんですね。ところで、このシャフリングベビーは、その後の発達に影響があるんですか?
武井先生
ほとんどのケースで、影響はありません。シャフリングベビーは病気や障害などではなく、発達の「バリエーション」ですから。「個性」と言ってもいいかもしれませんね。
ー個性ですか。では、いいとか悪いとかではないということですか?
武井先生
そうですね。地域によっては、乳児健診マニュアルに「はいはいをせずに伝い歩きをする赤ちゃんも多いので、発達の遅れと判断するには慎重に」としているところもあるくらいですから(※1)。その他の発達に問題がなければ、病院に行かずに様子見でいいと思います。
ーつまり、心配しすぎる必要はない、と。
武井先生
ええ。シャフリングベビーとそうでない子の発達の違いを例えるなら、東京から大阪まで新幹線で行くか、飛行機で行くかの違いです。ルートは違えど、ゴールは変わりません。もし自分の赤ちゃんがシャフリングベビーでも、神経質にならなくて大丈夫ですよ。
「寝返り」「はいはい」がスローペースでも、それは個性
「寝返り」や「はいはい」など、赤ちゃんがいつからできるかには、大きな個人差があります。
そのため、検索して出てきた結果や、育児本の情報、周囲の同じ月齢の赤ちゃんと比較して、もし自分の赤ちゃんの発達がゆっくり目だったとしても、それを心配しすぎることにあまり意味はありません。
たとえゆっくりペースでも、子供は育っていくものです。あまり心配しすぎず、ママ・パパが赤ちゃんの発達を見守り、できたことひとつひとつを喜んであげるようにしてくださいね。