男性の育休は、自分の意思で取るもの。|育休中に妻が家出したカピパラさん

育休を取る男性に、どんなイメージを持つでしょうか? 育児に真面目なパパ? ママの産後のサポートに積極的なパパ? それとも、ママや会社から育休を強く勧められて(半ば)取らざるを得なくなったパパ?

今回お話を伺ったカピパラさんは、どれにも当てはまりません。彼が育休を取ったただひとつの理由は「父親である自分には育児に参加する権利があるから」。

育児を義務ではなく権利と捉えて育休を取得したのが、カピバラさんの育休の最大の特徴なのです。しかしその育休期間中はなかなかドラマチックだったようです…!

カピパラさんのプロフィール

男性育休 カピパラさん
カピパラさん 正社員(福祉系)/フルタイム
奥さま 主婦 /パート

カピパラさんの育休で特に目に止まるのが、その「期間の長さ」。6.16%と、ただでさえ低いと言われている日本の男性育休の取得率のなかで、1年という長期の育休を取った経験からは、さまざまな学びがありそうです。

いろいろな不安を抱えながら取得した育休

仕事中のカピパラさん

― カピパラさんはTwitterを中心に、ご自身の育休の経験などを発信されていますよね。

そうですね、はい。

たまに発言が議論を巻き起こすこともありますが、別に過激なことを言っているつもりはなくて。ただ、自分の思っていることや経験していることを正直に語っているだけです。

― 今日は是非、その率直な思いを聞かせていただければ。ではまず、カピパラさんがいつ頃育休を取ったのか教えてください。

2017年9月に第二子が産まれたのですが、僕が育休を取ったのはその3日後から、2018年9月1日までですね。ほぼ1年です。

― 第二子で初めて育休を取ったのには、何か理由があったんですか?

上の子のときは、育休を取るなんて発想がありませんでした。日本の多くの男性と一緒で、育休にたいする知識がそもそもなかったんです。1人目が1歳になるくらいの頃から、徐々に制度について理解を深め、「2人目のときは絶対取ろう」と。

もともと育児に参加したいという気持ちがありましたし、ちょうど上の子ともっとコミュニケーションを取りたいなという思いも芽生えていたので、第二子が生まれたタイミングで、育休を取りました。

― なるほど。奥さまはどう思っていたのでしょうか?

妻は、最初僕が育休を取ろうとしていることを本気だとは思っていなかったですね。ただ、妊娠4ヶ月目くらいから、僕が会社に育休を取りたい意向を伝えるようになって、「あ、本気なんだな」と気づき始めたみたいで。

― 会社にも結構前から伝えてらっしゃったのですね。

そうですね。ただ、うちの会社で男性が育休を取った前例はなくって。上司も「男性も育休って取れるものなの?」って感じでした。だから最初に育休を取ることを伝えたときは「一回預からせてくれ」と。

― 会社はカピパラさんの育休を断るつもりだったのでしょうか?

いえいえ、そんなことはないと思いますよ。上司が男性の部下から育休の申請を上げられたことがなかったので、どう扱っていいかわからなかったみたいで。そこから一緒に制度や取り方を勉強しました。結局、僕が会社で初めての男性育休取得者になりました。

― 育休を取るにあたって、何か不安はありましたか?

うーん、僕は特になかったのですが、妻は不安だらけだったみたいですね。

妻にとって、僕が育休を取ることはほぼデメリットにしか感じられなかったようです。

― 旦那さんが育休を取ることは良いことのような気がしますが……。どんな点をデメリットに感じたのでしょう?

まず「お金」ですね。育休中は単純に給与の2/3~1/2しか収入がないので。うちはどちらかというと妻の方が浪費家で、金銭感覚にズレがあるんです。

あと、妻が専業主婦で自分(=妻自身)が働いていないがゆえの不安もあったみたいです。家庭での居場所を取られてしまうのでは…、みたいな。

― カピパラさんが育休を取る前にそういった不安についての話し合いはなかったんですか?

ありませんでした。お互いにまだリアルなイメージができていなかったんだと思います。

育休を取ってくれたらたしかに家事育児の面では助かるけれど、「私は専業主婦で、あなたは仕事をして稼いで欲しい」という雰囲気がありました。

― なるほど…必ずしも、奥さまはカピパラさんが育休を取ることに前向きではなかったんですね。

そうですね。「思っていたより僕と妻の価値観は違うな」というのは、育休を取る前から感じていました。

育休中、家事育児や生活リズムの変化よりも大変だったことは…

奥さんと喧嘩するカピパラさん

― では次に、育休を取り始めてからのことを聞かせてください。育休生活は、どうでしたか?

うーん……大変……でしたね、ホント。

新生児のときの昼と夜の境がない生活は大変でしたし、授乳と洗濯以外はたいてい僕がやっていたんですけど、それもたしかに大変でした。

ただ、そこまで苦しくはなくって、一番辛かったのは……妻との関係ですかね。

― なるほど。育休を取る前の懸念が当たってしまったと。

そうですね、はい。

ケンカというか、怒られたりはしょっちゅうありました。大きい声出されたり、物を投げられたり……。妻からの様々な形でプレッシャーをかけられていました…。

― プレッシャー……ですか。

「マターナル・ゲートキーピング」って、知ってますか?僕もTwitterで知ったんですけど(笑)。母親が、自分の領域を他人に侵されないよう防御行動をすること、なんです。

妻には「家事育児は自分の領域」という意識が強くあったんです。なので、僕が朝食をつくると、「冷蔵庫ぐちゃぐちゃにしないでよ」「その食材はいま使わないでよ」って言われたりとか。洗濯をすると、畳み方やしまい方、洗剤の種類、服の干し方まで文句言われたりとか。僕がする家事育児のほぼすべてについて言われた気がします。

― お互いストレスが溜まりそうですね……。

むしろ妻が家にいなくて、家事育児を100やらなきゃいけないときの方が楽ですね。何も言われないし、関与されないので。

一番きつかったのは「あなたが育休を取ったのはあなたが決めたことで、それによって収入減っているのはあなたの責任。私には関係のないこと」って言われたことですかね。

あとは「旦那が育休取ってるって、友達や近所の人に言えない」とか。まあ、冗談半分だったとは思いますけど。

― それはなかなかにきついですね。夫が育休を取ることって、奥様にとっては誇らしいことなんだと思っていました。

自分は子どもを産んだら家庭に入るから、あなたはお金稼いできてよ、という、割と昭和的な考え方と言えるかもしれませんね。

妻の家出、そして息子の変化

家出をするカピパラさんの奥さん

― それらの問題は、時間と共にどう変化していったんですか?

育休3ヶ月目くらいが一番悪化しましたね。妻も僕もメンタルにきました。僕の育休中に、妻は2度家出してますからね。

妻の実家はうちから近いんですが、実家に帰ったわけではなくて、完全に行方がわからなくなりました。

― え……?家出ですか?

しかも上の子も下の子も連れて、ですからね。義母と一緒に探しましたが見つからず、次の日の夜に帰ってきました。

2回目のときは、さすがに「子どもは連れていかないでくれ」と頼みこんだので、一人で家出しました。そのときも次の日には帰ってきてくれました。

― 大変…でしたね。

その経験に、上の子がショックを受けてしまって。夫婦の喧嘩に敏感になったり、妻の姿が視界から消えると探すようになってしまいました。

そんな上の子の姿を見て、僕の心も折れかけまして。自分が育休を取らない方が家庭が円満になるのなら、その方がいいのかな、それなら仕事に復帰しようかな、と思うようになりました。育休を7ヶ月で切り上げようかと検討したんですけど、旅行の予定とかもあったし、結局はそのまま一年取り続けました。

解決法は「誠実に歩み寄る」こと

― 結局一年取り続けられたということは、そこから関係性が良くなったんでしょうか?

そうですね、少しずつ。大正大学准教授で、「男性学(男性が抱える問題や悩み)」を研究している、田中俊之先生の講演会に参加して、マターナルゲートキーピングへの対応ができるようになりました。

田中先生は「誠実に歩み寄る」ことが大切だってお話しをされていたんですが、その通りだなあ、と思いましたね。ケンカのときも、売り言葉に買い言葉にならないように、とか。

― 感情的にならないことが大切、と。

そうですね。本来、僕も妻も、子どもにとっては「親」という役割が一番大切なわけで。家事育児はどっち、稼ぐのはどっち、っていうのは、縛り付けるための役割でしかないなと。僕は、妻と一緒に子育てして、一緒に働きたいんだ、ということを伝えました。

― なるほど。奥様はどんな反応をされたんですか?

最初はだまりこんでいましたね。でも徐々に理解してくれるようにはなりました。

FP(ファイナンシャルプランナー)にも相談したんですよ。今後も僕が一馬力で働き続ける場合、妻もパートで働く場合、妻も正社員で働く場合に、入ってくるお金と出ていくお金がどうなるのかを計算してもらったりして。

― 第三者を入れて話し合われたんですね。

夫婦だけで話すとなかなか歩み寄れないことも、第三者を入れると議論が進みやすくなりました。その結果、子どもは幼稚園に入れて妻は専業主婦を続ける予定だったのが、妻も働いた方がいいから保育園に入れよう、ってことになって。

― すごい。考え方がガラッと変わったんですね。 育休から仕事に復帰した今は、家庭環境は良好なんでしょうか?

とてもいいです。今となっては、マターナルゲートキーピングの原因のひとつは産後の不安定な状態もあったと思います。収入も元通りになって妻がお金の心配をすることもなくなったし、お互い顔を合わせる時間が減っているのもあるし。

妻はいまパートで働いていて、フルタイム勤務を目指しています。

育休を通じて、夫婦で向き合った経験が何よりも重要だった

カピパラさんと奥さんの話し合い

― 非常に波瀾万丈の育休経験についてお話を聞けて良かったです。もし知り合いに育休を取りたいと思っている男性がいたら、カピパラさんは育休を取ることをおすすめしますか?

しますね、もちろん。うちの場合は、いろいろトラブルが起こったけれど、今となっては良かったと思っています。離婚も考えるほどでしたけど、僕たちには必要な修羅場だったんじゃないかな、と。

― 雨降って地固まる、的な。

僕と妻の思いが違うことを、あいまいに解決させないままだったのが、明らかになったことで解決に向かわせることができました。今も完全に解決したわけじゃないですけど、あの修羅場があのタイミングでなければ、もっとひどいことになってたかもしれないし。

― 育休を取ったのがいいきっかけだったんですね。

男性が育休を取るのって、権利だと思うんです。僕は仕事だけじゃなく、家事や育児に積極的に携わりたかった。だから育休を取りました。

でもそこには社会や妻の偏見、固定概念という障害があって。実は僕みたいに、育休を取って家事や育児をしたいっていう男性って結構いると思うんです。だから、社会ももっと変わって欲しい。

そのためのひとつの手段として、男性育休義務化には個人的には賛成しています。


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