妊娠はするものの流産や死産を繰り返す「不育症」。原因が分かれば治療法が分かる場合もあるが、検査するもまったく異常なし。そして現在まで、いつか奇跡的に出産までたどり着けることを信じて、ただひたすら子づくりに励む日々が続く。そんななかで見つけた、養子縁組という、もうひとつの“母になる方法”。そんな43歳の編集者&バンドマンによる不妊治療と養子縁組の泣き笑い日記。連載35回、ラミナリアとの戦い、再び。
広がらない子宮口、膨らむ不安
手術前日に子宮口を広げるため、ラミナリアという名の“水分を吸って膨らむ棒”を突っ込まれただけで、想像以上の大ダメージをくらったわたし。
手術当日の朝、下腹部の鈍痛は前日よりも軽くなってきていたが、気分は反対にずっしりと重くなっていた。
手術が怖い。前日処置であんなに痛いなんて。
しかし逃げ出すわけにはいかない。
出産の痛みに比べたら、きっとこんなの屁でもないはず!
自らを奮い立たせて内診室の台に上がり、「さぁ来い」とばかりに股を開いた。
昨日から子宮口に突っ込まれていたラミナリアが抜かれる感覚があり、看護師さんが何やら内部を確認している。
「……?」
看護師さんが戸惑っている雰囲気がカーテン越しに伝わってきた。
そこへ「どうかした?」と先生がやってきて、看護師さんと先生の数人で相談し始めた。
「子宮口が狭くて、今日入れる予定のラミ(ナリア)が入らないんです」
「昨日のラミは入ってたんだよね?」
「確かに入ってたんですが……、狭くて入りません」
どうやらわたしは、さらに太いラミを突っ込まれる予定だったらしい。
しかし、昨日のラミがうまく膨らまなかったのか、わたしの子宮口が「決して広がるまい」と必死に抵抗してしまったのか……。
とにかく子宮口が狭くて、太いラミも入らないし、器具も入らないし、このままでは手術ができない。
そういうことらしい。
「じゃあ、もう麻酔下で子宮口を広げるしかないでしょう」
広げるってどうやって? 手術台の上で全部どうにかするってこと?
一気に不安が膨らんだが、麻酔するなら大丈夫だろうと考えることにした。
麻酔、ぜんぜん効いてないです!
そして点滴を装着したあと、いつも採卵や移植を受けている手術台に上がった。
まずは麻酔注射。
5回ほど子宮周辺に針が刺さり、その度に体がビクッと少し跳ねた。
そして、さっそく……「子宮の入り口を引っ張ります」「痛いですよ」の声。
さらに「痛みに耐えられなかったら言ってください。全身麻酔で手術できる病院を紹介しますから」と、先生は続けた。
ギャーーーーーーッ!!!!!!!!!!!!
ギューッッと内臓をつねって引っ張り上げられているような激痛があり、そのあとに何やらグイグイとされている感覚があって、その度に痛くて、思わず腰が浮いてしまう。
「力を抜いて!」「呼吸を整えて!」とか言われても無理で。
てか、今さら全身麻酔ができる病院に変更してくださいとか到底無理で!!!
「○○します。痛いですよ」「××です。痛いです」
先生が痛いって言うくらいだから、全部ちゃんと本当に痛い。
最後に「吸引します。がんばって」と言われ、これがサイコーに痛かった。
「イターーーー………ッッッッッ!」
叫んだ声も消えてしまって、喉がヒッヒッと変な音を立てていた。
掃除機で傷口を吸っている状態なのかしら……とにかく痛い。サイコーに!!!
たぶん、たった15分程度の手術だったと思う。
でも、終わったときは、もうフラッフラのヘッロヘロだった。
ベッドの上でロキソニンと白湯を飲み、横になってしばらくは、あごがガクガクと震え、足先が冷たいまんまだった。
まぁ、しかし、ラミを突っ込まれっぱなしだった昨日よりは回復も早く、1時間後には体を起こして、帰路につくことができた。
その日は料理をする気力もなく、夫が野菜たっぷりのインスタントラーメンを用意してくれた。
グズグズに煮崩れた野菜とフニャけた麺が混ざり合うラーメン。
見た目は完全に生ゴミだったけど、食べてみたらあったかくて、おいしかった。
続きは第36回にて。
(部分麻酔での子宮内膜ポリープ切除手術の痛みは人によって差がありますが、わたしは全身麻酔をおすすめします)
写真のこと:我が家には猫の置物が多い。夫もわたしも猫が大好きなのだけど、子どもよりも先に猫を迎えるのは禁止、というのがルールになっていて、今は我慢のとき。いつか、子どもと猫と犬とわたしたちでワイワイ暮らしたいものです。
吉田けい
よしだ けい
1976年生まれ。編集者・バンドマン。2010年、6歳下の夫と婚前同棲をスタートして早々に、初めての妊娠&流産を経験。翌年に入籍するも、やっとの妊娠がすべて流産という結果に終わる。その後、自然妊娠に限界を感じ、40歳になる2016年に体外受精を開始。2018年11月、構成・編集を手がけた書籍『LGBTと家族のコトバ』(双葉社)を出版。