赤ちゃんのお世話をしているときに、「この子の考えていることがもっとわかればなあ…」と思ったことはありませんか?
何か欲しがっているようだけど、何が欲しいのかわからなくて途方にくれたり、泣いている理由がわからなくてあたふたしたことは、多くのママやパパが一度は経験しているのではないでしょうか。
もちろん私もあります。娘が泣いている理由がわからなくて何度困ったことか…。
そこで今回、言葉を話せない赤ちゃんとコミュニケーションが取れるようになるという「ベビーサイン」について、日本ベビーサイン協会の広報担当・長屋さんにお話をうかがってきました。
今回は連載第1回として、まずはベビーサインとは何なのか、どのようなメリットがあるのかを知っていただき、興味を持っていただけると嬉しいです。
ベビーサインとは、どんなもの?
−さっそくですが、「ベビーサイン」ってなんですか?
日本ベビーサイン協会・長屋さん(以下長屋さん):ベビーサインとは、まだ言葉をうまく話せない赤ちゃんと簡単な手話やジェスチャーを使ってコミュニケーションをする育児法のことです。
英語圏ではすでに広く知られていて、最近はスペイン語圏や中国語圏にも広まりつつあるんですよ。日本では、2000年頃、当協会の代表・吉中みちるが実践しはじめ、その経験を『赤ちゃんとお手てで話そう』(※1)という本にして出版したことで知られるようになりました。
−言葉を話せないのに赤ちゃんとコミュニケーションが取れるんですか!?
長屋さん:赤ちゃんにとって、声を使って話すのは難しいことなんです。声をしっかり発生するには口や舌、喉の筋肉が必要ですし、当然、言語能力の発達も必要ですから。でも、手や指は比較的早くから自由に動かせるようになります。
だから、赤ちゃんがしゃべれなくても、ベビーサインを使うとコミュニケーションが取れるようになるんです。
−誰でも必ずベビーサインができるようになるんですか?
長屋さん:はい。全国にベビーサイン教室があって、毎年1万人近くの赤ちゃんと保護者が受講されていますが、全員ベビーサインが使えるようになっているんです。
言葉を話す前の赤ちゃんが、サインを使って「ミルクが欲しい」「もういらない」「寒いよ」「お腹が痛い」と教えてくれたり、「おやつちょうだい」「手伝って」「鳥だ」「飛行機だ」と表現したりできるようになるのを見れば、きっと感動しますよ。
ベビーサインで夜泣きの原因がわかって育児がラクになる!
−う〜ん、私の頭が固いせいでしょうか。ベビーサインを使った育児というのが、いまいちイメージしづらいです。
長屋さん:そうしたら、具体例を挙げましょうか。ベビーサインのある生活ってこんな感じですよ。
※以下はママと赤ちゃんのとある1日です。【】はそのとき使ったベビーサインを表しています。
赤ちゃん ママの顔を見て【ミルク】【飲みたい】
ママ 「のど渇いたのね。洗濯物干したらあげるから、ちょっと待っててね」【待っててね】
(ママは洗濯物干しが終わったら掃除に取りかかってしまい、なかなかミルクをくれない)
赤ちゃん ママの前にやってきて【待ってるよ】
ママ 「あ、ごめん!すっかり忘れてた。今ミルクあげるね」【ミルク】
赤ちゃん 朝起きて、おっぱいをせがむ【おっぱい】
ママ 「おっぱいね、もうおしまいにしようかなって思ってるの」【おっぱい】【おしまい】【なくなった】
赤ちゃん おっぱいがほしくて泣く
(その後も赤ちゃんがおっぱいをほしがるたびに、ママは【おっぱい】【おしまい】【なくなった】を繰り返す)
赤ちゃん 朝起きて、ママに【おっぱい】【なくなった】
ママ 「わ〜◯◯ちゃん、えらいね!ちゃんとわかってくれたんだね、ありがとう」【ありがとう】
−こんなに言葉を使わずにやりとりができるのですか!?赤ちゃんの夜泣きやぐずり泣きの原因がわかったりもするんでしょうか?
長屋さん:そうですね、なんで赤ちゃんが泣いているのか、赤ちゃん自身がベビーサインを使って教えてくれたりしますよ。ミルクが欲しいのか、それとも抱っこして欲しいのか。そういったことがわかるので、育児がラクになりますよ。
ベビーサインで赤ちゃんが自分から「お腹が痛い」と教えてくれる!
−他にベビーサインのメリットはありますか?
長屋さん:なによりもまず、育児のイライラが減ります。これは今説明した通りですね。赤ちゃんが泣かずに欲求や気持ちを伝えてくれるようになるので、赤ちゃんにとっても、ママ・パパにとってもイライラが減って、育児がより楽しくなります。
次に、赤ちゃんの健康と安全に役立ちます。たとえば、「痛い」という意味のサインを教えると、赤ちゃんが自分から「お腹が痛い」「足が痛い」といったことを教えてくれるようになります。
それから、親子の絆がより深まるということもあります。ベビーサインをしている赤ちゃんをとても愛おしく感じられたり、気持ちが通じ合えた、笑えたといったエピソードが多くなります。
ベビーサインのせいで言葉を覚えるのが遅くならないの?
−いいことづくめのように感じられますが、デメリットはないんでしょうか?たとえば、言葉を覚えるのが遅くなるとか…。
長屋さん:その質問はよくされますね。
でも、ベビーサインのせいで言葉を覚えるのが遅くなるということはないんですよ。それどころか、ベビーサインをしていた子は、そうでない子に比べて、理解できる言葉が多かったり、話し始めたときに豊かな語彙で、より長い文章を話すことができるという研究結果があります。
ベビーサインはいつから教えられる?
−今すぐに我が家でも始めてみたくなってきましたが、ベビーサインはいつから始めるといいのでしょうか?何か目安はありますか?
長屋さん:まだおしゃべりができない赤ちゃんとだったら、いつから始めてもらっても大丈夫ですよ。
特に、生後6ヶ月くらいになったら、普段の生活の中でベビーサインを見せていくと良いですね。その頃になれば、おすわりができるようになることが多く、赤ちゃんの目線がちょっと高くなって、周りのものに興味関心が向き、指が自由に動かせるようになるからです。
1歳過ぎると、大人のまねっこがとても上手にできるようになるので、ベビーサインの数がどんどん増えて、一番楽しい時期に入ります。ものの名前、感情表現など様々なベビーサインを見せていくといいですよ。
−うちの娘はもうすぐ2歳なのですが、今から始めるのは遅いのでしょうか?
長屋さん:そんなことはありませんよ。1歳半を過ぎるといくつか単語をしゃべるようになる赤ちゃんもいますが、まだまだ話し言葉だけでは十分にコミュニケーションがとれませんよね。
「自分でやってみたい!」という意思が出てきたときに、ベビーサインが使えて周りとコミュニケーションが取れる方が、赤ちゃんにとってもフラストレーションはうんと減ります。
なので、おしゃべりがまだゆっくりなお子さんであれば、2歳頃でも、まだまだベビーサインを楽しんでいただけます。
−では逆に、生後5ヶ月以前の赤ちゃんだとどうでしょうか?
長屋さん:生後5ヶ月以前のねんね期は、ベビーサインを実際に教え始めるまでの準備期間だと考えてください。この時期の赤ちゃんは周りをよく見て、いろんなことを吸収している時期ですから、積極的に赤ちゃんと関わってあげるといいですよ。
例えば、アイコンタクトを取ったり、喃語でやり取り遊びをしたり、スキンシップ遊びなどがお勧めですね。
−準備期間まで含めると、ベビーサインを育児に取り入れられる期間というのは意外と長いんですね。
長屋さん:赤ちゃんは成長とともに、話し言葉で伝えられることは、自然とベビーサインを使わなくなり卒業していきます。なので、赤ちゃんの様子を見ながら、いつまで教えていくのかは各家庭で判断していただくのがいいかと思います。
ベビーサインのせいで、話し言葉が出てこなくなるということはありませんから、安心してくださいね。
次回は育児がラクになるベビーサインを紹介します!
ベビーサインって、そんなに有用なんですね!俄然、我が家でも取り入れたくなってきました。
でも、どうやって始めたらいいんだろうか?あと、育児の負担を減らしてくれるサインがあったら教えてもらいたいなあ。
というわけで、次回のベビーサイン連載第2回では「ベビーサインの正しいやり方」と「育児がラクになるサイン」を長屋さんにお聞きしようと思います。ご期待ください!
取材協力
参考書籍
『親子で楽しむベビーサイン』(実業之日本社/吉中みちる・まさくに著)
ポッケベビーサイン部
作者