今回は、5歳の息子さんを育児中の上田ちまきさんのエッセイをご紹介します。
こどもだけが持つ不思議なちから
わたしはこどもの頃、自由に雲を操ることができた。
だれかに話すとその「ちから」が失くなってしまうから、それはずっとわたしだけの秘密だった。
空に向かって指を伸ばす。雲はわたしの指に吸いつくように集まって、わたしの思うままに、あちらへこちらへ、流れてゆく。
わたしはいつしかその「ちから」を失ってしまった。
どこへ消えてしまったのだろう。
だれにも話していないのに。
息子は、星を集めて歩く。
わたしには見えないけれど、息子の目には確かにそれが映っているようで。
あ!あった!ここにもあった!と言いながら、行く先々で、息子は抱え切れないほどの星を集める。
息子が星をつかまえるとき、「ピュン」と息子の口が鳴る。
ピュン、ピュン、ピュン、ピュン。
その「音」がするたび、この街が星であふれていることに気づく。わたしの目には見えない星が、いくつもいくつも。
読み書きができるようになったとか、お絵かきや工作が上手にできたとか、自転車に乗れるようになったとか。
もちろん、そういうのも大切なんだけれど。
大人になったわたしはいつも目に見えるものばかり評価する。それを息子の成長を見るときの「ものさし」にさえしてしまう。ずいぶんつまらない人間になってしまったなと思う。
だれもがいつかはできるようになることをできるより、雲を操ったり、星をつかまえたりできることのほうが、ずっとずっと、かっこいいのに。
わたしの目には見えない星を、息子はいつまで集めることができるだろう。
いつか息子の目に、星が映らなくなったとしても、わたしは息子がその「ちから」を持っていたことを、きっと忘れない。
記事提供:上田ちまき
ポッケ編集部PICKUP育児エッセイ
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