赤ちゃんは肌トラブルを起こしがちです。なかでも、多くのママを悩ませるのが「乳児湿疹」ではないでしょうか。
そこで今回、皮膚科専門医で、子供の皮膚に詳しい「恵比寿mamaクリニック」の加藤円香先生に乳児湿疹の原因・予防・治し方などについて話をうかがいました。
初めて乳児湿疹を経験するママは、ぜひこの機会に正しい知識を得て、少しでも育児の不安を解消してもらえるとうれしいです。
乳児湿疹とはどんな病気?
−さっそくですが先生、「乳児湿疹」とはどのような病気なんでしょうか?
加藤先生:乳児湿疹とは赤ちゃんにできる湿疹のことで、一般的には「新生児ざ瘡(赤ちゃんのニキビ)」と「乳児脂漏性湿疹」をまとめて指すことが多いと思います。
ただ、「乳児湿疹」という病気の定義はけっこう曖昧なんです。
例えば、新生児ざ瘡と乳児脂漏性湿疹に加えて、乾燥性湿疹やよだれかぶれなど、赤ちゃんの湿疹を総称して乳児湿疹と呼ぶこともあります。
また、私の場合、生後半年頃に現れる湿疹が乳児湿疹だと教えられてきました。生まれたばかりの赤ちゃんにまず新生児ざ瘡ができて、その次に乳児脂漏性湿疹という湿疹ができ、さらにその後に現れるのが乳児湿疹だと。
ですから、乳児湿疹がどういう病気なのかというのは、医師によっても考え方が異なると思います。
乳児湿疹の症状と原因は?
−なるほど。では、一般的な意味での乳児湿疹は、どんな症状なのでしょうか?
加藤先生:新生児ざ瘡の場合は、まさにニキビのようなプツプツした湿疹が出ます。乳児脂漏性湿疹は赤くジュクジュクした湿疹や、黄色いかさぶたのようなものができたりしますね。
ただし、新生児ざ瘡と乳児脂漏性湿疹が一緒になって発症することもあって、その場合はジュクジュクした湿疹のところどころにプツプツした湿疹ができていることもありますよ。
どちらも顔にできやすいです。それから、かゆみはなく、症状は一時的なものです。赤ちゃんがかゆがっていたり、症状がよくなったり悪くなったりを繰り返すようなときは、乳児湿疹ではなく、アトピー性皮膚炎の可能性があります。
−乳児湿疹は何が原因で発症するんですか?
加藤先生:乳児湿疹は、赤ちゃんの肌から分泌される脂質が一時的に増えることで起こります。脂質とは油、いわゆる皮脂のことです。
生後3ヶ月くらいまでの赤ちゃんは男女ともに男性ホルモンが分泌されているのですが、その量が一時的に増えることで、皮脂の分泌が盛んになるんです。
乳児湿疹になったら病院に行くべき?
−赤ちゃんが乳児湿疹になったら、病院で診てもらった方がいいのでしょうか?
加藤先生:乳児湿疹は家庭でのスキンケアで治ることも多いのですが、長引くと治りにくくなったり、アトピー性皮膚炎になってしまったりすることがあるため、できれば病院で一度診てもらった方がいいと思います。
スキンケアをしていてもジュクジュクしたままだったり、赤ちゃんが引っ掻いて血が出てしまったりするというのが、病院へつれて行く目安ですね。
病院では基本的に、ステロイドの塗り薬が処方されます。それを毎日使っていれば、だいたい1ヶ月くらいで治ることが多いですね。ただし、湿疹のタイプによってはステロイドじゃない塗り薬を使うこともありますよ。
「乳児湿疹にステロイド」って本当に安全なの?
−「ステロイド」と聞くと、ちょっと不安になってしまいます。赤ちゃんに使っても大丈夫なのでしょうか?
加藤先生:ステロイドが怖いと思われているのは、おそらくステロイドの飲み薬の副作用が大きく報道されているからだと思います。ですが、乳児湿疹の治療に使う塗り薬のステロイドはそれほど強いわけではありませんし、長期間使うわけでもありません。
ですから、あまり心配する必要はないと思います。
ステロイドの塗り薬で出る副作用としては、皮膚が薄くなったり、毛が濃くなったり、血管が浮き出て見えたりすることです。
しかし、専門医の指示にしたがって使っている限り、副作用が出ることはありません。もし出たとしても、使用をやめれば、徐々に治っていくことが多いです。
−ステロイドを恐れるあまり、適切な治療を受けない方がよくないということでしょうか?
加藤先生:そうですね。乳児湿疹を放っておくと、色素沈着が起きたり、皮膚がゴワゴワしてきたりするので、そちらの方が弊害が大きいと思います。
お子さんのことを考えると、乳児湿疹はステロイドなどの塗り薬を使って治療をした方がいいと私は考えています。
乳児湿疹が原因でお子さんが夜しっかり眠れなかったりすると、成長に悪影響が出ることもあります。しかも、お子さんが寝不足だとママも寝不足になりがちです。
そのため、まずはステロイドを使って乳児湿疹をしっかり治して、それから少しずつステロイドをやめていくというのが一番いいでしょう。
乳児湿疹の治し方は?家庭のスキンケア方法は?
−先ほど、乳児湿疹は家庭でのスキンケアでも治ると仰ってましたが、具体的な治し方を教えてください。
加藤先生:新生児ざ瘡であっても、乳児脂漏性湿疹であっても治し方、つまりスキンケアの方法は同じです。患部をシャワーなどで洗って清潔にすることと、そのあとにしっかり保湿することです。
患部を洗うときは手やガーゼでこすったりはせず、石けんをしっかり泡立てて、その泡で包み込むように洗ってください。使う石けんはできれば弱酸性のものを選ぶようにしましょう。
洗い終わってタオルで水気を拭き取ったら、できるだけ早く保湿剤を使って保湿します。
赤ちゃんの皮膚は大人よりも薄いので、時間が経つとどんどん乾燥していってしまいます。できれば、お風呂から出て5分以内に保湿してあげましょう。
使う保湿剤はベビーローションやベビークリームがいいですね。
−ベビーローションとベビークリームのどちらを使えばいいのか迷ってしまいそうです。
どちらを使うかは自由です。使いやすい方を使えばいいと思いますよ。
夏はサラッとしたベビーローションですませ、乾燥しがちな冬場はこってりとしたベビークリームを使う、といった感じでもかまいません。
あえておすすめするとしたら、セラミドやヘパリン類似物質などが入った保湿効果の高いもので、なおかつ水分と油分のバランスのよい乳液(乳状ローション)タイプやクリームタイプがおすすめですね。
使う量としては、よく「500円玉くらいの量を片腕全体に伸ばす」とか言われたりしますが、慣れないと難しいかもしれません。
その場合は、塗り終わった後、赤ちゃんの肌がテカテカしていて、ティッシュ1枚が貼りつくくらいと考えるといいでしょう。
保湿剤を使いすぎて悪いことは特にないので、経済的に問題がないのであれば、量は気にせず使うといいと思います。
乳児湿疹の予防方法は?
−乳児湿疹にならないように、予防することはできるのでしょうか?
加藤先生:乳児湿疹は予防することができますよ。具体的には、体を洗って清潔にするのと、保湿剤を塗ることです。つまり、なってしまった後のスキンケアと同じなんです。
保湿には肌を保護する効果もあって、これが重要です。
というのも、乳児湿疹は母乳や食べ物、花粉などが刺激になって悪化することが多いからです。そのため、授乳や離乳食の前後に保湿剤を塗って、刺激となるものから肌を守ることが予防につながります。
それから、朝に保湿することも重要です。乳児湿疹を悪化させる刺激に触れることが多いのが日中だからです。保育園などに通っていると特にそうです。
だから、朝に保湿しておくことで、そういった刺激から赤ちゃんの皮膚を守ることができますよ。
−保湿はいつ頃まで続けるといいのでしょうか?
加藤先生:子供の肌が十分に発達しきるのは3歳頃だとされています。そのため、3歳くらいまではしっかりとスキンケアをしてあげた方がいいですよ。
乳児湿疹には適切な治療とスキンケアを!
乳児湿疹は日頃からしっかりとスキンケアをすることで、予防したり、悪化するのを防いだりすることができるようです。
また、なってしまったとしても、自然と治ることがあります。
ただし、場合によってはアトピー性皮膚炎などにつながることもあるため、赤ちゃんが乳児湿疹になってしまったら、念のため病院で診てもらい、適切な治療を受けた方がよさそうです。
赤ちゃんの乳児湿疹で悩んでいるママはぜひ参考にしてみてください。
取材協力
恵比寿mamaクリニック
恵比寿にある、ママと家族のための漢方&皮膚科クリニック。一般皮膚科だけでなく、小児皮膚科や美容皮膚科など、肌に関する悩みの総合的なサポートを行なう。