子供が生まれると、ママ友のようにそれまで関わってこなかった人たちとたくさん関わることになります。
しかし、そのせいでストレスを抱えてしまうことも少なくありません。では、どうすればストレスのない人間関係を築けるのでしょうか?
当連載では、精神科医の水島広子先生による「女子の人間関係をうまく渡り歩く方法」を紹介していきます。
今回は、他人のライフスタイルを非難する人について。悩んだ末に選択したライフスタイルを非難されることはとても辛いこと。どのように向き合っていけばよいのでしょうか?
【第2回】
他人のライフスタイルを非難する女
専業主婦の友達から働いていることを非難されます
第一子を出産後半年で仕事に復帰しました。同時期に子どもを生んだ友人は専業主婦。出産時期が近かったこともあって、妊娠中や産休中はけっこう連絡をとっていて心強くも感じていましたし、前以上にぐっと仲良くなりました。
でも私が仕事に復帰すると、「子どもがかわいそう」とか「3歳まではそばにいたほうがいい」とか言われることがあります。カドが立たないように「うちは両方働かないと金銭的に厳しいから」と答えているのですが、そうするとまるでこちらが嫉妬したりひがんだりしているような受け取られ方をします。
金銭的なことだけでなく私は自分のためにも働いていた方がよいと考えているのですが、そう話すと逆に専業主婦である彼女を非難しているようにも聞こえてしまうかもしれないし…。それさえなければ、よい友達なんですが。
Cさん
ライフスタイルの違いをどう乗り越えるか
ライフスタイルの違いによる悩みは、不思議なほど女性特有と言えるものです。
例えば、職場に子育て中の女性と独身女性がいる場合、子どものために早く帰る女性に対して独身女性は「独身の自分が残業をすべて押しつけられる」と感じがちですし、
逆に子育て中の女性は気楽に飲みに行ったりする独身女性を見て「独身の人には自分の苦労はわからない」と感じがちです。
「同じ女性同士だから味方してくれるはず」などという思いを持って育休から復帰した女性などは、往々にして、男性よりも女性の方が厳しいことに愕然としたりするものです。
同じことは男性にも言えるけど女性ほどではない
実はこのライフスタイルの違いは女性特有のものではありません。男性にも、やはり子育て中の人と独身の人がいます。
しかし、この両者がお互いを非難がましい目で見る、という話はあまり聞きません。もちろん最大の理由は、まだまだ子育ての多くを女性が担っているという現実にあるのでしょう。
子育て中の男性が、子育て中の女性と同じだけ、仕事と育児の両立に苦労しているか、というと、やはり差があると思います。
小さな子どもがいる女性が飲みに行くことはとても難しいけれども、男性の場合は「つき合いだから仕方がない」と、そのハードルは低くなることが多いものです。
そのような背景は確かに存在しているのですが、このCさんのケースの場合、自分が働くことが専業主婦の友人の育児を難しくするわけではありませんから、
そこには単なる「相手のライフスタイルによって自分が現実的に割を食う」という問題ではない、より精神的な要因があることがわかります。
どのライフスタイルを選んでも失うものがある
なぜ、女性は自分とは異なるライフスタイルを選んだ女性に対してよい感情を持てないことが多いのでしょうか。
それは、どのライフスタイルを選んでも、「大きく失う」ものがあるからだと言えます。
例えば会社員の男性が子どもを持っても、一般に、「会社員」というアイデンティティや、将来のキャリアの見通しまで失うわけではありません。
しかし、女性の場合、本当は、社会でも活躍したいし、子どもも育てたいと思っても、その全部を手に入れることは、今の社会の仕組みや人々の意識から言ってもかなり難しいのです。
また、「母親なのだから子どもの近くにいてあげたい」という気持ちもありますし、「子どもが小さいうちは母親が自分の手で育てるべき」という価値観もあるでしょう。
ですから、何かを諦めざるを得ないということになり、「自分にはないものを持っている人」への嫉妬を感じることになるのです。
ゼロベースで生き方を決められる女性は少ない
その嫉妬は、例によって「正論」として語られていることの中に見つけることができます。
「子どもがかわいそう」「3歳まではそばにいたほうがよい」などという言葉からわかるのは、「自分は子どもがかわいそうだと思ったから、本当は仕事を続けたかったけれどもやめた」
「本当は四六時中子どもと一緒にいるのは閉塞感があってストレスだけれど、3歳まではそばにいたほうがよいと聞いたから我慢している」ということなのです。
そんなふうに正直に言ってもらえれば、「子どものためを思って偉いよね。私にはとてもできない」と賞賛したり、
「確かに子どもとずっと一緒にいるのは大変だよね。でもよく頑張っている」などとねぎらったりすることもできるでしょう。
でも、「子どもがかわいそう」「3歳まではそばにいたほうがいい」などと言われてしまうと、ただこちらが悪いと決めつけられているだけ、ということになってしまい、お互いの立場を慮ることもできません。
そもそも、女性の人生はとても多様なものだとは言いながら、ゼロベースで何かを決めている人はほとんどいないでしょう。
「3歳までは母親がそばにいたほうがよい」などという「俗説」(ちなみに、保育園にも預けずにそばにいるほうがよい、という「三歳児神話」は学術的には根拠のないものとして否定されています)や、
周囲からのプレッシャーのために、生き方を余儀なくされている人も多いのです。
子供のためだけの時間を設ける
あるいは、自分が小さい頃母親が働いていて寂しかったから、自分は絶対に専業主婦になると決めていた、という人もいます。
確かにその人は寂しかったのだと思います。しかしそれは、実際のところ、働いていたという事実によるよりも、子どもと向き合う親の姿勢の問題であることが大部分なのです。
「どうせ自分は働いていて十分に子どもにかまってあげられないから」という罪悪感や、仕事と育児の両立の困難からくる切迫感のために、子どもに背を向けるような態度をとってしまう大人が多いのです。
それで子どもに寂しい思いをさせる、というのが多くのケースにおける本質です。
短時間であっても、「子どものためだけの時間」をもうけることで、母親が働いていることの問題は解決できることが多いものです。
心地よい子供との関わり方から逆算する
ですから、本当は、まず、自分にとって最も心地よい子どもとの関わり方を考えて、それに合わせてライフスタイルを選べばよいのです。
いつも子どもと一緒にいなければうまく関われない、自分は複数の課題を同時にこなすことは苦手、子どもと一緒にいてやってあげたいことがたくさんある、と思う人は専業主婦の道を選べばよいですし、
仕事をしていた方が子どもとうまく関われそう、いつも子どもと一緒にいたらストレスから虐待してしまいそうだという人は仕事を持てばよいでしょう。
人それぞれのあり方があってよいのです。
ライフスタイルに正解はない
「自分にとって最も心地よい子どもとの関わり方」には、経済的事情も含まれるでしょう。
「今月のやりくりはどうしようか…」などと思いながら子どもと一緒にいても、決して居心地がよいとは言えないと思います。
ですから、そんなことも総合的に判断して、自分のライフスタイルを決めればよいのです。
それはときに「余儀なくされる」というものかもしれませんが、「与えられた条件の中で、最もよく子どもを育てていこうと思ったら、こんなところだな」と考えれば、「決める」ということになるでしょう。
どのライフスタイルが「正解」ということはありません。ある人にとっては専業主婦が「正解」に見えるかもしれないし、そうでない人もいるでしょう。
しかし、それはその時点で考える「正解」であって、永続的なものでもないのです。
専業主婦を選んだ場合、結婚生活がずっと順風満帆でいけばよいでしょうが、離婚やDV、夫の浮気ということになると人生の計画がすっかり狂ってしまいます。
つまり、「夫がどういう夫であり続けるか」にすべてが委ねられてしまうとも言えるのです。
「羨ましいもの」に目が行ってしまう
では、仕事を続けることを選べば万事オーケーかと言うと、そこもまた仕事と家庭の両立という茨の道。
どちらも十分にできないという不全感を抱えながら、綱渡りのような日々を必死で生き延びる自分に比べて、優雅に日常を楽しむ専業主婦が羨ましく思えることもあるはずです。
そんなふうに、「羨ましく見える」ものに対しては、「正論」を盾にとってちょっと意地悪なことを言う、という「女」の現象が起こってきます。
本当はそれぞれが、相手に比べれば「多く持っているもの」があるのですが、「相手が持っているのに自分が持っていないもの」に目がいってしまうのです。
まさに、癒やされていない心がなせる業だと言えるでしょう。
<後編につづく>
※この連載は『女子の人間関係』(サンクチュアリ出版)からの転載です。
次回予告
後編ではいよいよ、ライフスタイルを非難してくる人との関わり方についてご紹介します。
2021年8月14日(土)公開予定。
お楽しみに!
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水島広子
著者