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母乳外来みつ院長の「365日のおっぱい」♯1 乳頭混乱

ー神奈川県にある、1軒の助産院ー

「おっぱいが出なくて、足りているのか不安で」「授乳、授乳で寝る暇がなくて、もう限界です」

そんな悩みを抱えて、不安と緊張で張り詰めた表情のママが、くる日もくる日も訪れます。

これは、365日、ママと一緒に悩み、喜び、涙する、ある助産院の院長、みつ先生の日記です。

【♯1】ひとり歩きするコトバ「乳頭混乱」

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刷り込まれたコトバ

今日、はじめてやってきたママは、すこしだけ雰囲気が違っていた。

どことなく自信があるというか、こう、ほかのママによく見られる「先生に何を言われちゃうんだろう…」「わたしの育児、ここでも否定されちゃうのかな…」という、怯えた様子がまったくなかった。

わたしがお話を聞く前に、ママが「うちの子、ニュートーコンランなんです」と切り出した。「ニュートーコンランを起こしたから、おっぱいを飲まないんです」と。

「あぁ、また『乳頭混乱』。このコトバがあいかわらずひとり歩きをしているのね…」。内心、そう思ってしまった。

「そう習って、がんばってきたのよね」

ママが、吐き出すように教えてくれたこと。

ー乳首が痛くても、赤ちゃんが「乳頭混乱」を起こすから保護乳首をつけてはいけませんー

ー哺乳瓶を使うと、赤ちゃんが「乳頭混乱」を起こすから哺乳瓶を使ってはいけませんー

ー直接おっぱいから飲ませることこそが、正しい母乳育児なのですー

「それなのに、わたし、どうしても痛みに我慢できなくて…。哺乳瓶を使ったら、赤ちゃんが…、赤ちゃんが、おっぱいを飲まなくなってしまって」。とうとう泣き出してしまった。

今まで張り詰めていた糸がプツンと切れたように。


「ママ、そう習ってきたのね。そう教えてもらってがんばってきたのね。えらかったね」


そう声をかけると、ママがふぅっと長い息を吐いた。あぁ、どれだけ辛かったのだろう。痛くても痛くても、赤ちゃんのために我慢して、がんばってきたのね。

今のママたちは、自分らしい育児をしにくい環境に置かれてしまっている。そして、その環境の中で、自分に科せられた尊い命を守ろうとして、がんばっている。ううん、懸命に戦っているんだ。

正しい答えは、赤ちゃんが返してくれる

授乳 低月齢

おっぱいって、ほんとうに不思議なの。

まだまだわかっていないことも多いのだけれど、40年間、助産師をしてきたわたしが自信を持って言えるとしたら「正しい答えは、赤ちゃんが返してくれる」ということ。

この赤ちゃんも、ママに伝えたいことがあったのかもしれない。「ママ、わかって!」って、必死に伝えようとしていたのかもしれない。

「ママ、おっぱいと赤ちゃんの様子を見せてもらってもいいかな?赤ちゃん、乳頭混乱を起こしているわけじゃないかもしれないの」と伝えると、驚いた表情で「ニュートーコンランじゃないんですか?」と聞いてきた。

助産師や医師がかけるコトバは、ママたちに瞬時にインプットされてしまう。そして、このように、ひとり歩きをしてしまうことも珍しくない。

それだけママたちは赤ちゃんに対して過敏になり、慎重に、大切に育てようとしている。

「ママ、飲めたね!やったじゃない!」

ママのおっぱいと赤ちゃんが吸う様子を見せてもらったところ、おっぱいが詰まりかけて出が悪くなっていた。

あぁ、赤ちゃんのためにがんばりすぎて、ママの体が少し疲れちゃっていたのかもしれない。

赤ちゃんが、「ママ、ちゃんと休んでね」って教えてくれていたのかもしれない。

おっぱいをマッサージして、乳首のくわえ方を見直したら、赤ちゃんはおいしそうに、幸せそうにおっぱいを飲み始めたの。

「ママ、飲めたね。赤ちゃん、こんなに飲めているじゃない!やったね!」

このときのママの安心しきった顔と、愛おしそうに赤ちゃんを見つめる眼差し。この瞬間があるから、私は助産師という仕事をやめられないの。

ママが笑顔になれたら、それでいいの

ママ 後ろ姿

「あの助産師さんにはこう言われた」

「健診で小児科の先生にこう言われた」

「義母や母にはこう言われた」

いろいろな意見があるものね。どの意見を取り入れたらいいか、迷ってしまうママもいると思う。

そんなときは、どんな小さなことでもいいから、ママが誰かに話をすることで元気になれたらそれでいいと思うの。

一人で悩むんじゃなくて、元気になれて、赤ちゃんがかわいいって思えて、また育児をがんばろうって思える。

それだけでいいと思うの。

だって、ママが笑顔で、赤ちゃんが元気で、それ以上に大切なことって他に何もないでしょう?

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取材協力:佐藤 みつ

取材協力:佐藤 みつ

助産師/神奈川県横浜市マタニティハウスSATO院長

1979年 神奈川県立衛生看護専門学校助産師科卒業。大学病院・個人病院での勤務、自治体の新生児訪問などを経て、「ママが気軽に立ち寄れる場所を作ってあげたい」という気持ちから、1993年に助産院を「マタニティハウスSATO」を開業。分娩やおっぱいマッサージ、ベビーマッサージなどを行っています。「昔、取り上げた子がママになって、その子がお産をしに来てくれるなんて幸せでしょ?」