ー神奈川県にある、1軒の助産院ー
「おっぱいが出なくて、足りているのか不安で」「授乳、授乳で寝る暇がなくて、もう限界です」
そんな悩みを抱えて、不安と緊張で張り詰めた表情のママが、くる日もくる日も訪れます。
これは、365日、ママと一緒に悩み、喜び、涙する、ある助産院の院長、みつ先生の日記です。
【♯4】わたしのミルク育児
「先生は順調な母乳育児をしたんですよね」
今日はね、ちょっとだけわたしの育児についてお話しをしようかしら。
わたしには娘がいて、同じ助産師の道を進んでいます。
だからね、「先生の背中を見て育ったんですね」なんて言ってくれるママもいて、ちょっと照れくさかったりもするの。
ここに来てくれるママからよく質問されるのが、「先生は、さぞかし順調な母乳育児をされたんですよね」っていうこと。
もう、そんなときは困っちゃう(笑)。「あ〜、う〜ん、えへへ」なんてごまかしちゃう。
だって、わたし、おっぱいが思うように出なかったんですもの。
「べぇっ」をされたわたしのおっぱい
娘を出産後、少しでもおっぱいを飲ませようと思って、いろいろがんばったの。自分が持っている知識を総動員して、食べるものにも気をつけました。
それなのに、娘に飲ませようとすると「べえっ」ってするの。「ママのおっぱいヤダ!」って言っているみたいに。
おっぱいが張ってきたら、自分で搾って飲ませてみたり。ほんとうに、いろいろ試したのよ。
義理の母がやって来た。
そして、つぶやいたひと言
わたしは、帝王切開で娘を出産しました。
産後、まずは義理の母が手伝いに来てくれたの。帝王切開だったということもあって、とっても力を込めてやって来てくれたの。「これが私の役目です」っていう雰囲気で。
ある日、あれこれ試しながら授乳しているわたしを見て、お義母さんが「あら、おっぱいちっちゃいのね。だから出ないのね」って言ったの。
その瞬間、よくわからない何かがわたしの頭の中を「ツーン」って走ったの。「ツーン」って(笑)。
そうしたらね、おっぱいが出なくなっちゃった。
「なんでだろう、おっぱい出ないな。なんでだろう」っていろいろ考えたときに、「あ、あのひと言だ!」って。
おっぱいって、精神的な影響をとっても受けやすいと思うの。だから、お義母さんやママのお母さん、旦那さんには、本当に気をつけて発言をしてほしいなって思っています。
いいお嫁さんでいようと思って出た遠慮
お義母さんとは、とってもいい関係だったのよ。
でも、わたしも若かったから、いろいろ気を遣って遠慮しちゃったのね。
「ご飯、何食べたい?」って聞いてくれても、「なんでも嬉しいです!」って。ほんとうは、「これが食べたいです!」って言えるのがもっといいお嫁さんだったのかもしれないけれど、遠慮して言えなかった。
お義母さんは、ほんとうに一生懸命ご飯を作ってくれたの。でも、わたしなりの知識から「あー、これじゃないのー!」なんて思うこともあってね。でも、言えなかった。
ママたちも、きっとそういうことあるんじゃないかな。
そうやって、遠慮をしてしまったり、思っていることを言えなかったりするのも、おっぱいにはよくなかったのよね。
ミルク育児が悪いわけじゃないでしょ?
母乳外来でママたちのおっぱいを見ているけれど、わたし自身は、あんまりおっぱいを飲ませられなかった。
赤ちゃんに与えられる免疫力は、母乳に勝るものはないの。だから、「おっぱいを飲ませてあげて、赤ちゃんが病気しにくいほうがいいでしょ?」とはママに言います。
でも、だからといってミルクが悪いわけじゃないでしょ?
おっぱいが出ないママの苦しさは、わたしもよく知っている。だから、ママ、自分を責めることだけはしないでね。
佐藤みつ
さとう みつ
1979年 神奈川県立衛生看護専門学校助産師科卒業。大学病院・個人病院での勤務、自治体の新生児訪問などを経て、「ママが気軽に立ち寄れる場所を作ってあげたい」という気持ちから、1993年に助産院「マタニティハウスSATO」を開業。分娩やおっぱいマッサージ、ベビーマッサージなどを行っています。「昔、取り上げた子がママになって、その子がお産をしに来てくれるなんて幸せでしょ?」
佐藤みつ
さとう・みつ