母乳外来みつ院長の「365日のおっぱい」♯10 母乳、足りない?

ー神奈川県にある、1軒の助産院ー

「おっぱいが出なくて、足りているのか不安で」「授乳、授乳で寝る暇がなくて、もう限界です」

そんな悩みを抱えて、不安と緊張で張り詰めた表情のママが、くる日もくる日も訪れます。

これは、365日、ママと一緒に悩み、喜び、涙する、ある助産院の院長、みつ先生の日記です。

【♯10 最終回】母乳、足りない?

365日のおっぱい アイキャッチ

いちばん多く見た涙

助産院を開業して、25年が経ちます。

数えきれないくらいの赤ちゃんを取り上げてきました。そして、数えきれないくらいママの涙も見てきました。

うれし涙もあるけれど、苦しい、悲しい、やるせない、そんな涙も少なくなかった。

その中でいちばん多かったのは「母乳が足りていないのでは…」と、生まれたばかりの我が子を抱きながら、自分を責めてこぼす涙でした。

小さく生まれた赤ちゃんを抱いて

先日、生後1ヶ月過ぎの赤ちゃんをこわごわと抱きながら、1人のママがやって来ました。

ママの言葉の端々に「小さく生まれたから」というフレーズが出てきて、この1ヶ月、ママは自分を責めながら過ごしてきたことが容易に想像できたの。

「小さく生まれたから、おっぱいを吸う力も弱いみたいで…」

「小さく生まれたから、1ヶ月健診でもこの子だけ体重が少なくて…」

「小さく生まれたから、成長も遅いんじゃないかと不安なんです…」

最後の言葉を言い終わらないうちに、たまらなくなってママの手を取ってこう言いました。

「ママ、もう自分を責めないで。この子はこの子なりの成長をしていくの。それでいいのよ」

私の頑張りが足りないから…

ママ うつ 落ち込む
次の日にやって来たママも、「母乳が足りているのか不安で…」と涙ぐんでいました。

入院中から母乳の出が思わしくなくて、助産師さんにいろいろ相談していたらしいの。

「泣いたらおっぱいあげてくださいねって言われて、そのとおりにしてきたんです…」

「でも、赤ちゃん、うまく乳首をくわえられなくて泣いてばかりで…」

「だから、30分おきに授乳をしてきたんですけど、泣いてばかりで…」

「母乳が足りているか不安で不安で…」

30分おきに授乳だなんて。この1ヶ月、どれだけ辛かっただろう。体も心も悲鳴をあげていたよね。

「ママ、今日までほんとうによく頑張ってきたね」そう声をかけると、「違う!わたしの頑張りが足りないから、だから母乳が足りていなくて…」

最後まで言い終わらないうちに、ママは泣き出してしまったのよ。

みんな同じじゃなくていい。違うのが当然

授乳はね、本当にママと赤ちゃん一人一人違うの。赤ちゃんの舌小帯(※)の長さや舌の動かし方、ママの乳首の長さ、みんな違うでしょ。

赤ちゃんの吸う力、胃の大きさ、ママのおっぱいの出具合いも人によって違うの。

一人一人違うよって言われても、どうしたって周りの赤ちゃんやママの様子を見て比べちゃうよね。

だから、ママの性格によって提案する内容を変えることもあるんです。

※舌小帯(ぜっしょうたい):舌の裏側に付いているひだのこと。舌小帯が短いと、うまく哺乳できない場合も。

目に見える数字の変化が自信になる

小さく生まれた赤ちゃんのママには、ベビースケールを使うように勧めることがあります。

「ママ、母乳が足りているか不安なんだよね。じゃぁ、ベビースケールを借りてみたら?」って。

赤ちゃんがどれくらいおっぱいを飲めたか数字で確認できると、自信につながるママが多いの。

他の赤ちゃんと比較するんじゃなくて、目の前の、自分の赤ちゃんがどれくらいおっぱいを飲めたのかを見てもらうの。

赤ちゃんは、自分のペースで大きくなっていくんだよ。

その数字がプレッシャーになることもある

逆に、ベビースケールのレンタルを提案しないこともあります。

とっても頑張り屋なママには、ベビースケールで見える数字がプレッシャーになってしまうこともあるから。

寝る間を惜しんでまで授乳をしていたママには、こうやって提案したこともあります。

「ママ、こんなにこまめに授乳していたら、ママが休めないよね?ごはんも食べられないよね?」

「だから、授乳は●時間おきにしましょう。足りない分はミルクを足してみない?」って。

母乳外来に来るママは「赤ちゃんに母乳を飲ませたい」って思っている。だから、ちゃんと目を見て言うの。

「ママ、少しだけミルクの力を借りてみない?ママがしっかり休んで、ご飯も食べて、赤ちゃんが欲しがるだけのおっぱいが溜まる時間を、ミルクの力を借りて作ってみない?」

ママが笑顔になれる育児を選んでね

ママ 赤ちゃん 抱っこ

育児に正解なんてないの。

赤ちゃんもママも一人一人違うんだもの。その数だけ、育児があっていいのよ。

私たち助産師も、人によって考え方も、ママへのアドバイスも違うと思うの。

だから、最後はママに選んでほしいと思っています。

いろいろな考え方があるけれど、ママが笑顔で育児ができる方法を選んで欲しいの。

育児に正解があるとしたら、ママが笑顔でいること、ただそれだけだとわたしは思っています。

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取材協力:佐藤 みつ

取材協力:佐藤 みつ

助産師/神奈川県横浜市マタニティハウスSATO院長

1979年 神奈川県立衛生看護専門学校助産師科卒業。大学病院・個人病院での勤務、自治体の新生児訪問などを経て、「ママが気軽に立ち寄れる場所を作ってあげたい」という気持ちから、1993年に助産院を「マタニティハウスSATO」を開業。分娩やおっぱいマッサージ、ベビーマッサージなどを行っています。「昔、取り上げた子がママになって、その子がお産をしに来てくれるなんて幸せでしょ?」