ベビーサインの連載は今回で最終回。これまで、具体的な育児の悩みを解消することを目的に、ベビーサインをご紹介してきましたが、今回はちょっと視点を変え、ベビーサインが子供の成長にどのような影響を与えるのかを、日本ベビーサイン協会の長屋さんにお聞きします。
ベビーサインを育児に取り入れることで、将来、あなたのお子さんがどのように成長していくのか、イメージを膨らましながら読んでいただけると嬉しいです(前回記事は下記を参照してください)。
ベビーサインで育った子は将来どうなる?
−ベビーサインを取り入れて赤ちゃんを育てると、将来、どのような子になるのでしょうか?
日本ベビーサイン協会・長屋さん(以下長屋さん):ベビーサインを教えた赤ちゃんが将来どのように育つのかは気になるところだと思います。
当協会では、ベビーサイン教室に通っていた生徒さん親子に、卒業後、追跡調査を行なっています。その結果、ベビーサインが話し言葉や集中力などにいい影響を与えているということがわかりました。
ベビーサインは子供のコミュ力を上げる!
−具体的に教えていただけますか?
長屋さん:まず、お子さんがよくお話をするようになりますね。卒業生の中には、知らない人にも自分からたくさんしゃべりかけられるというお子さんは多いようです。
また、一般的に思春期の子供というと、家族みんなで夕食をとったりする機会が減ってしまうものですが、ベビーサイン教室の生徒さんのご家庭は、思春期でも家族とコミュニケーションを取りながら食事をすることが多い、という声も聞きます。
−なるほど。子供が成長してもコミュニケーションがしっかりと取れるということですね。
長屋さん:ベビーサインを使うことにより、赤ちゃんはママやパパが自分の気持ちをわかってくれる、自分もママやパパの言いたいことがわかる、ということに気づきます。
言葉を覚えるよりも前にそのことに気づくことで、コミュニケーションそのものに前向きになるんです。その結果、話し言葉というコミュニケーションツールも貪欲に学ぶ姿勢が生まれます。だから、ベビーサインで育てた赤ちゃんはおしゃべりになる、とよく言われるんですよ。
8割の子が身につける「ある力」
長屋さん:また、ベビーサインをすることで、集中力も身につきやすいという傾向があるようです。ベビーサイン教室の卒業生の親へのアンケートでは、約8割の人がお子さんに集中力があると思う、と答えています。
「幼稚園での工作の時間、他の子供が飽きて他の遊びをしはじめる横で、一人黙々と作業を続けられる」「集中力が高く宿題などがスピーディーに仕上がる」という声もありますよ。
−なぜ、ベビーサインをすると集中力が身につくのでしょうか?
長屋さん:ベビーサインで育った赤ちゃんは、自分の気持ちがわかってもらえたり、共感してもらえたという経験がベースにあるため、外の世界に安心して心と体を向けることができるといわれています。不安がない分、物事に集中しやすくなるようです。
絵本はベビーサインと相性がいい。しかし…
長屋さん:ベビーサインで育った赤ちゃんは、絵本や本が好きになる傾向にあります。その割合は、ベビーサイン教室受講者のおよそ9割にもなるんですよ。
なんで絵本を好きになるのかというと、「これ、知ってるよ!」を伝えられるからだと思います。
赤ちゃんはおしゃべりができなくても、見聞きしたことを「伝えたい!」と思っているんです。絵本の中には、初めて見るものだけでなく、普段の生活でよく見るものも描かれています。だから、絵本を読み聞かせすると、「あっ、これ知ってるよ!」とベビーサインで教えてくれます。
そういう経験を何度もするうちに、自分の意思を明確に伝えられることを知り、絵本が好きになってくのだと思います。
−そうだとすると、絵本はベビーサインを教えるのに最適ですね。
長屋さん:確かにそうなのですが、一つ注意していただきたいのは、「絵本=ベビーサインを教えるツール」ではないということです。
絵本を使ってベビーサインを教えようと大人が必死になればなるほど、赤ちゃんは絵を見ることに集中できず、ママやパパの手を見ようとします。これでは絵本の世界をじっくり楽しむことはできませんよね?
赤ちゃんが自分から絵本の中のものやお話を表現したいと思ったときに、ベビーサインを使って表現するのが本来の姿だと思います。そのことをご理解いただきたいですね。
ベビーサインで手先が器用になる?
−ベビーサインは手を使うので、手先が器用になったりはしませんか?
長屋さん:そういった声も聞きますね。ベビーサイン教室の卒業生へのアンケートでは、「お子さんは手先が器用だと思いますか?」という質問に対して、7割以上の人が「そう思う」と答えています。
たとえば、使い方を教えていないのに1歳半を過ぎる頃にはお箸が使えるようになったというお子さんや、蝶々結びがすんなりできたというお子さん、絵を描くのが好きで細かいところもしっかり描写できるというお子さんもいますよ。
育児に自信がない人ほどベビーサインを!
−ベビーサインにはいいことがいっぱいあるので、もっと多くの人に知ってもらいたいですね。
長屋さん:そうなんです。簡単に教えられて、赤ちゃんが自然に学べ、親子が楽しくコミュニケーションできて、しかも言語能力の発達に好影響があるので、もっと多くのご家庭に広まってほしいと思っています。
ベビーサインは世界的にも急速に広まっているので、日本で広く理解されるのもそんなに遠くないだろうと私たちは考えているんですよ。
−特にどんな人に、ベビーサインを勧めたいでしょうか?
長屋さん:ベビーサインは親子でしっかり向き合ってコミュニケーションする“対面型”の育児法なので、いま育児を楽しんでいらっしゃる方はもちろん、育児に戸惑いや不安を抱えていたり、親として自信がないという人にも、ぜひ知ってほしいですね。
−よくわかりました。いろいろなお話を聞かせていただけて、とても楽しかったです。ありがとうございました。
編集後記
ベビーサインに関する全7回にわたるインタビューにお付き合いいただき、ありがとうございました。
長屋さんに話をうかがうまで、赤ちゃんのしぐさや動きから、何を考えているのか読み取るのがベビーサインだと思っていました。しかし、それはまったくの勘違いだったようです。
もしかしたら、ベビーサインに対して私と同じような勘違いをしている人はけっこういるのかもしれません。
今回の連載記事を通じて、ベビーサインとは何なのか、どのようなメリットがあるのかといったことを知ってもらい、少しでも多くのママやパパに「育児が楽しい!」と思ってもらえるようになったらうれしいです。
取材協力
参考書籍
『親子で楽しむベビーサイン』(実業之日本社/吉中みちる・まさくに著)
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