夫婦それぞれの実家が遠く、身近に協力者なし。共働きで、しかも、仕事が忙しい夫。こんな状況で子育てをしているママは多いのではないでしょうか。
今回紹介するエッセイの著者で、ライター・編集者の徳 瑠里香さんもそんなママの1人。
旦那さんが長期で家を空けることが多い環境のもと、仕事と育児を何とか両立されている徳さんは、家族のベストな関係性をどのように探っているのでしょうか。
夫長期不在のワンオペ育児に、
襲い掛かる手足口病とイヤイヤ期
我が家は毎年恒例、夫の長期出張に伴い、絶賛ワンオペ育児中。
直近、私自身の仕事の山場(著書の校了)があり、定期的な仕事に加えて、イレギュラーな仕事(雑誌の取材で出張など)もあったので、内心ドキドキひやひやしていた。
そしてそれは、杞憂、には終わらなかった。
娘(1歳9ヶ月)は全国に蔓延する手足口病にかかり、1週間保育園に行けなかった。20人以上いる1歳児クラス全員が感染したというのだから、もはや防ぎようがない。
また菌をもらってくるのでは……とそわそわしながら、翌週はなんとか通えたものの、今度は、喉からくる夏風邪が流行。
娘も御多分に洩れず、熱、咳、鼻水、嘔吐、と夏風邪のオンパレードでまた1週間ほど休むことになった。
子どもというのは、壮大に風邪を引いていても、なぜかとても元気なので、娘と過ごす日中は仕事にはならない。
しかも同じタイミングで、娘は本格的にイヤイヤ期に突入。
ひょんなきっかけでスイッチが入ると、声を震わせ「いや〜っ!いや〜!いや〜っ!いや〜!」と声がかれるほど泣き叫び、地面に座り込んで寝そべって足をバタつかせ、もう、どうしようもない。
これが「魔の2歳児」と呼ばれるイヤイヤ期か。絵に描いたようなイヤイヤで笑えてくる。
のは、心に余裕がある時だけで、大抵はイライラしてしまう。
どうしたいの?と問いかけて解決策を探ってみるもののほとんどわからない。
心を無にして放っておいたり、動画を撮って夫に送ってみたり、娘のイヤイヤに心が引っ張られないように、現象として俯瞰するしかない(みんな、どうしているの?)。
「魔」とささやかれる一方で、言葉を覚え意思疎通ができるようになったこの時期の子どもはむちゃくちゃ可愛い。
「おいしいね」「たのしいね」とにっこり、「かあちゃん、だいすき〜」とぎゅーっとされたら、そりゃもうとろけちゃう。あれ、天使なの?
なんで私だけが、一人で
そんな娘と一緒に過ごしていて、お母さんである自分が(時にイライラしつつも)ほくほく満たされる一方で、働く自分は焦りを募らせてもいる。
娘が生まれて2年近く経つというのに、そのバランス、心持ちのいい塩梅がいまだに見つけられていないようにも思う。
実家が遠い共働き核家族の私たちが、夫婦お互いに自分の仕事をして、責め合わずに子育てをして、家族をつくっていくためにはどうすればいいんだろう。
私はここ最近、ウルトラ忙しい夫が家にいないことに慣れ、娘とふたりの暮らしがすっかり板につき始めていた。
それでも娘が1週間休むことになって、なんで私だけが、仕事の調整をして一人で焦っているんだろうという疑問がふつふつと湧いてきて、夫に伝えた。
娘の病院帰りに夫に送ったLINE(笑)
私が求めていたのは、これだったんだ
その後、夫はプロジェクトが無事終わったこともあり、約1ヶ月半ぶりにつかの間、帰ってきた。
久しぶりのパパに娘は大興奮、動物のモノマネやブリッヂ、犬のおまわりさんやカエルの合唱を歌うなど、できるようになったことをここぞとばかりに披露し、とってもご機嫌。
夫が帰ってきたら、いかにワンオペ育児が大変か文句を言ってやろうと思っていたのに、娘があまりに調子に乗るもんだから、なんだか拍子抜けして、私たち家族は笑い合っていた。
夫の仕事と私の育児を労って、家族でイタリアンへランチに行き、夜は近所の焼肉へ。
夕暮れ時、水たまりや公園、時に立ち止まり、娘のペースでゆっくり、ゆっくり向かう道すがら、何度も笑みがこぼれた。
肉を焼いてたらふく食べて、ビールをぐびぐび飲んで、ほろ酔い満腹で帰る夜道。
「かあちゃん!」「パパ!」と娘が手を引いて間に入って、家族3人で手をつないで歩く途中、不覚にも目に涙が滲んだ(酔いが回っていることもあり)。
ああ、私が求めていたのは、これだったんだ。ささやかだけれど、たしかな幸せが、そこにはあった。
私たちはどうしていけばいいんだろう
翌朝、夫は次のプロジェクト準備のため、朝早くに京都へ発った。
朝目覚めてパパの姿がなかった娘は、「パパ、パパ?パパー!」と家中を探し回っていた。
せつない。
すかさず動画に撮って夫に送ったら、娘に会いたくてたまらなくなったのか、その日の終電でたった一晩のために、夜遅く帰ってきた。
一目散に娘が眠る寝室に入ってきたのに、寝ぼけまなこでパパを見た娘はなぜかイヤイヤが発動。
「パパ、いや〜っ!」と泣き出し押し出し、夫は一人リビングのソファで眠り、朝早くにまた京都へ向かった。
せつない。
物理的な子育ては、今でも保育園におんぶに抱っこ状態ではあるし、シッターやファミサポなど外部サポートを利用することだってできる。
でも、私は、
娘が体や心の体調がすぐれない時、
行き場のない感情をぶつけたい時、
何かあった時に、ちゃんと寄り添える親でありたいと思う。
そういう時は、「お母さん」であることを最優先したいし、夫にもできる限り同じ目線で「お父さん」でいてほしい。
お互いに仕事をしながら、物理的な子育ての大変さを押し付け合うのではなく、娘を育てることの喜びを一緒に分かち合って、家族みんなで過ごす時間を健(すこ)やかなものにしたい。
私たちが家族であるためには、当たり前だけれど、夫の存在も不可欠なのだ。
ということで、文句ではなく、そんな思いを夫に伝えた。
理解を示した夫は、私が1日長野出張へ出かける日、娘に何かあった時に対応できるよう京都から東京へ戻ってきてくれた。
さて、今後二人目を望むことも考えて、私たちはどうしていけばいいんだろう。
そんなことを夫とふたりで話していて、いたった結論は、「我が家は漁師家庭のようだね」。意味不明だし、なんの解決にもなっていないのだけれど。
数週間、数ヶ月単位で長期出張のある夫は、マグロ漁船にでも乗って漁に出ているようなもの。娘と一緒に早くに寝て、夜中の3時頃に目覚めて原稿を書いている私は、魚河岸で働いているようなもの。
(仕事の内容はまったく異なるしそもそも漁師の働き方もよくわかっていないけれど時間的なイメージとして)
漁が終われば夫は数週間、1ヶ月単位で休みを取ることもできる。魚河岸タイムで働く私は、日中に時間をつくることもできる。
そうすれば、家族で健やかな時間を一緒に過ごすこともできるし(夫が休み期間に旅行するなど)、娘に何かあった時(病気で保育園を休むなど)に対応することもできる。
幸せのかたちを、探り探り、つくっていこう
まあ、つまり、自分たちが生まれ育ってきたいわゆるサラリーマン家庭、周囲の家族と比べないで、自分たちの働き方、家族と過ごす時間、その幸せのかたちを、探り探りでも、つくっていこう、と。
ひとまず我が家は漁師スタイルでやってみることにした。
実際今もそのスタイルだし(捉え方の問題?)、またすぐに行き詰まったり立ち止まったりするとは思うけれど。
昨年の同じ時期も同じようなことに悩んでいるもんね。で、書きながら私は一人で開き直っていく(笑)。
余談だけれど、鍵や財布をしょっちゅう落としたり忘れたりしては開き直ってしまう私のことを大学時代の友人が「平成のポジティブサザエさん」と形容していて笑った。
注意散漫な体質も、ワンオペ育児も、開き直る以外の解決策を見つけたいと本気で思っているんだけれども。
さあ、夫が漁から戻ってきたら、家族でどこへいこうか?計画立てなくちゃ。
その日を楽しみに、帰りを待ちわびながら、私は魚河岸タイムを中心に、せっせと働くぞー。よっ、毎度!(開き直ってるだけ?)
記事提供:徳 瑠里香
次回『PICK UP育児エッセイ』は、9月27日公開予定です。
徳 瑠里香
ライター・編集者
出版社で書籍・WEBメディアの企画・編集・執筆、著者の会社でブランドの編集(PRや店舗運営)などを経て、独立。ウルトラ忙しい夫と1歳の娘と3人家族。note:https://note.mu/rurika
著書
『それでも、母になる 生理がない私に子どもができて考えた家族のこと』(ポプラ社)
ポッケ編集部PICKUP育児エッセイ
作者