自分の子供を保育園に預けることが決まり、嬉しさとともに不安や寂しさを覚えるママもいるのではないでしょうか。
今回ご紹介するエッセイの作者、田中伶さんもそんなママの一人。
まだ生後4ヶ月の子供を見知らぬ環境に預けることが、本当に正しい選択なんだろうかと悩み自問する日々。
しかし、匿名掲示板でふと見つけた言葉に心を動かされると同時に、あることに気づいたそうです。
【作者プロフィール】
田中 伶
台湾がもっと好きになるウェブメディアHowtoTaiwan編集長。台湾やIT関連のPR/ライティングのお仕事してます。他にもtwitterやnoteで育児や仕事のことを書いています。子連れ台湾旅行に特化したガイドブック『FAMILY TAIWAN TRIP #子連れ台湾』を出版しました。台湾とビジネス書と映画をこよなく愛する一児の母。
記事提供元:保育園に預けるという選択が寂しくて不安でどうしようもないママに捧げる
子供を保育園に預けることで襲った葛藤
私から、保育園に受かった人へのメッセージを。
Twitterのタイムラインで今年も「受かった」「落ちた」の言葉が踊った。
一年前は、私も大学受験以来の緊張を抱えながら、仕事中に鳴った電話を「すみません!今日は保育園の発表で」とワンコールで取った。
相手も同じく働くママだったので、無事に保育園に受かったことが分かると、手を取り合って喜んだのだった。
旦那も私も自営業である我が家には、育児休暇なんてものもない。
なんとしてでも認可保育園に預けなければ生活が維持できない。
そのためにも、0歳4ヵ月の息子を認可外保育園に預けるという選択をした(認可外保育園に預けたという実績が認可保育園合格のポイントにつながる)。
激戦区である東京都世田谷区の保活をどのように乗り切ったかという話は過去に受けた取材でも話したことがあるが、そこでは語れなかったことがある。
それは認可外保育園に預けることが決まったときの葛藤だ。
それは葛藤というよりも、情緒不安定な自分との戦い。
慣らし保育(数時間ずつ預けて環境に慣らしていく期間)で2時間ほど預けた初日。
保育園近くのカフェで仕事でもしようかとパソコンを開くと、自分の息子よりも大きな子供たちが、お母さんと楽しそうに過ごしていた。
そんな姿を見て胸がつかえてしまい、トイレに駆け込んでめそめそ泣く始末だった。
悠々とランチをしている自分にどうしても罪悪感を覚えてしまう。
子供が保育園に行っている間は、お昼ご飯を食べられなかった。
基本的に仕事が大好きだし、早く仕事させろー!とウズウズしていたので自分がそんな心境になったことに驚き焦った。
自問する日々。そして見つけた「ある言葉」
まだふにゃふにゃとした子供を、見知らぬ環境に預けることが本当に正しい選択なんだろうか。
と自問する日々。
保育園に入りたくても入れない人は沢山いるという大前提の中では、こんな声をあげるのはとても気が引ける。
けれど、一緒にいてあげたいというあたたかい母性に蓋をして、無機質なパソコンの画面に向き合っている自分を虚しく感じた。
そうするしかない家庭の状況がただただ情けなかった。
愛情をたっぷり受けて育ったなあと感じる自分の半生を振り返ってみれば、そこにはいつも専業主婦の母がいたわけで。
思わず「保育園 寂しい」で検索した。
すると、私と同じような悩みが投稿される匿名掲示板の中でとある人のコメントが目に留まる。
親が自分の選択を正当化するための言葉と言われてしまえばそれまでだけど、当時の私はこの言葉にものすごく救われた。
自分が向き合っているのは「保育園に預ける/預けない」という目の前の選択肢ではない。
息子のこの先の長い人生なんだと気付かされたから。
新たな気持ちで見られた、子供の日常
そんな発見があってから、改めて息子が通う保育園のノートを見た。
私がひとり自宅で「はやく寝てくれないかな… あれしなきゃ、これしなきゃ」とピリピリ念じながら過ごしているよりも、はるかにほのぼのとした空気に包まれているように感じた。
年上のお姉ちゃんにやさしく頭を撫でられたこと、
ころころ寝返りをしてお友達にぶつかったこと、
3歳児クラスのみかん狩りにおんぶ紐でついていったこと、
いつものお散歩コースでお気に入りの犬に出会ったこと。
ただゴロンと寝ているだけの息子の毎日は目まぐるしい。
まだ自分で座ることもままならない息子に鬼のお面をつけて、節分豆の感触をじっくりと確かめさせるなんて、私一人では絶対にしなかったと思う。
クリスマスに赤いインクで鼻を塗られ、お友達と並んで笑う子供の写真は今でも宝物だ。
実家が遠い私たち夫婦にとって、子育て経験のある人が一緒に子育てに関わってくれる人がいるのも心強かった。
成長を一緒に喜んでくれたり、病気やケガをしたことを一緒になって心配してくれる人がこの街にいる。
その事実だけで、人生で初めて、自分の住んでいる街に愛着も湧いた。
「お母さんの子でよかった」
そう思ってもらえる未来を、息子と一緒に描こう
あれから一年経ち、息子は今日も元気に保育園に通っている。
時間はかかるけれど、自分の足で歩いて登園できるようになった。
目が合えばお互いにキャハハと笑い合うようなお友達もいる。
昨日はお誕生日会、今日は餅つき、明日は絵の具で全身を汚したりと、相変わらず目まぐるしい毎日だ。
新しい仕事が舞い込む中で保護者会の役員としても張り切っている私は、一人でランチを食べるのもいつからか平気になった。
いま思えば、一年前、私が平日の昼間に見かけて「いいなあ」と羨ましく感じた親子は、本当は毎日保育園に通っていてたまたまその日がお休みだっただけなのかもしれない。
貴重な時間をめいっぱい楽しんでいただけなのかもしれない。
家族のことはその家族にしか分からない。
し、正解もない。
ただ「保育園で良かった」「幼稚園で良かった」ではなく「お母さんの子で良かった」と思ってもらえる未来を、これからも子供と一緒に描く。
働く自分の背中を息子は見てくれている、とはあまり思わない。
でも、小さな身体で毎日保育園に登園する頼もしい息子の背中を見て、いつも励まされる。
それを家族のパワーにして、精一杯の環境をつくることがいまの私にできることだ。
一年前の自分の心境といまの変化を残しておきたくて、書きました。
誰かの不安にそっと寄り添えていますように。
田中伶さんの著書
『FAMILY TAIWAN TRIP#子連れ台湾(地球の歩き方BOOKS)』(ダイヤモンド・ビッグ社)
ポッケ編集部PICKUP育児エッセイ
作者