PICKUP育児エッセイ

65日ぶりの登園|PICKUP育児エッセイ#24

今回は、5歳の息子さんを育児中の上田ちまきさんのエッセイをご紹介します。

2ヶ月以上登園自粛していた息子さん。久々に保育園に向かう息子さんと上田さんは緊張気味でしたが…

※このエッセイは、2020年6月上旬のお話しです。

変わるもの、変わらないもの

息子が65日ぶりに登園した。

前日の夜、自分で着替えや靴をリュックに入れながら「うれしいけど、ドキドキするよ」と言っていた息子。今朝は何でもないようなそぶりを見せながらも、いちばんお気に入りの電車の服を選んで着ていた。

わたしも、0歳の息子を、はじめて保育園に預けた日より緊張している。

いや、何ならあの「慣らし保育」期間は、ひさしぶりの一人の時間に浮かれまくっていたし、目星をつけていた近所のレストランやカフェで連日ランチを楽しんだ不良母だったので、あのときと比べるのはちょっと違うかもしれない。


緊急事態宣言が解除となって、うちの保育園ではすでに7割くらいの園児が登園していると聞いた。

わが家は今月も登園自粛を継続する予定だったけれど、息子の「保育園、行きたい」のひとことをきっかけに、週に何度か短時間だけ登園を再開することに決めたのだ。

上田ちまき エッセイ

息子を感染リスクから守りたい気持ちと、「日常」に戻してやりたい気持ち。

うまくバランスをとれるように、わが家なりの一歩を踏みだす。

息子が登園しなかった間に、お友達同士の関係も微妙に変化しているかもしれない。息子はうまくみんなの輪の中に入っていけるだろうか。

息子はあまり積極的に他人と関わろうとするタイプではない。どちらかと言うとひとりでのんびり遊ぶことが得意だ。

そんな彼にとって、保育園のお友達は心を許せる数少ない相手なのに、もしお互い距離を感じてしまうようなことがあったらどうしよう。


心配。


上田ちまき エッセイ

饒舌におしゃべりしながら足早に歩いていた息子が、保育園の門前で途端に静かになった。何も言わないけれど、きっと「ドキドキする」のだろう。

毎日楽しみに通っていた保育園の前で、息子がこんな気持ちになるなんて。

「仕方がなかった」とは言え、とても心苦しい。

息子は無言のまま靴を脱ぎ、慣れた手つきでそれを靴箱にしまう。目に映るのは、2ヶ月前と何も変わらない風景だ。

わたしがドアを開け、クラスのお部屋へ入ると、息子も黙ってついてくる。


「おはようございます」


わたしの声を聞きつけたのか、弾丸のように二人の園児が飛び出してきた。

上田ちまき エッセイ

「息子くーーーん!!息子くーーーん!!」

その二人は、息子が0歳児クラスからずっといっしょに過ごしてきたお友達。

だけど、こんな風に名前を呼んで出迎えてくれたのは、今日がはじめてだ。

すき。もう、すき。だいすき。

何なのこの子たち、最高。

めっちゃ抱きしめたい。

濃厚接触したい。

ありがとうありがとうって言いながらなでまわしたい。

このご時世じゃなければ確実にやってた。やらかしてた。

息子は、わたしの後ろに隠れて照れ笑いしている。

そんな姿を見ても、二人はニコニコと笑ってくれている。


ああ、大丈夫なんだ。


わたしの心配も、息子のドキドキも、杞憂だった。ここには息子の大切なものがたくさんたくさん詰まっている。親のわたしが知らないだけで、かけがえのない、素敵なものがたくさんたくさん。

息子の大切な場所が、ちゃんとここにある。

それだけで、十分だ。

息子が帰ってきたら、たくさん今日の出来事を話してもらおう。

息子を出迎えてくれたお友達にしたかった分も、息子を強く強く抱きしめよう。



記事提供:上田ちまき

※編集部注)この記事は積極的な登園を推奨するものではありません。保育園・幼稚園への登園については、周囲の状況や園の意向などに応じてご自身で判断をお願いします。


上田ちまき

上田ちまき

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