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マドレボニータが伝えたい「産後ケア」の大切さ【インタビュー後編】

産後に特化したプログラム「産後ケア教室」を全国で展開する認定NPO法人マドレボニータ代表の吉岡マコさん。前回のインタビューでは、マドレボニータの産後ケア教室について教えてもらいました。

産後女性の体と心をケアするマドレボニータとは【インタビュー前編】

産後女性の体と心をケアするマドレボニータとは【インタビュー前編】

今回は、マドレボニータが活動を通して伝えている「産後ケアの大切さ」について、伺いました。

「産後に必要なのは、ダイエットではなくリハビリ」の意味

バランスボール

最近「産後ダイエット」という言葉をよく聞きますが、吉岡さんは、「産後に必要なのは、ダイエットではなくリハビリ」と言います。

ー 「産後に必要なのは、ダイエットではなくリハビリ」という言葉の意味は、出産によってダメージを受けた体を回復させる、ということでしょうか?

出産によるダメージというよりは、産後1ヶ月で落ちた体力を徐々に取り戻す、という意味です。

産褥期は、出産によって胎盤が剥がれ落ちたり産道に傷ができたりと、体が大きなダメージを受けています。その時期はリハビリ以前の問題で、とにかく横になって休む「休養」が必要なんですよね。なのでこの時期は、徹底的に休んで、周りの人からケアを受ける必要があります。

でも産後1ヶ月くらい家にこもって全く動かないでいると、筋力も持久力も落ちてしまいます。なので、自分の体に適切な負荷をかけて、落ちた体力を取り戻していくのが、「リハビリ」なんです。


ー なるほど。でも、産後に「痩せたい」と言う女性はやっぱり多いですよね。出産した芸能人も復帰が早いし、みんな細いし…。

あとロイヤルファミリーとかね(笑)。産後すぐあんなに小綺麗にしている姿を見ちゃうと、自分はどうしてこんななんだろう?ってヘコみますよね。

みんな産後ダイエットっていうけど、妊娠したから太るのではなくて、産後にストレスで食べてしまっているのが原因なんです。だから、そのストレスを抱えたままダイエットをしても意味がない

運動をして、きちんと体力を取り戻せば、余計な体重は自然に落ちますよ。腹筋がつくことで姿勢もスタイルもよくなるし、運動すると精神的にも前向きになって元気になる。

なので、まずはリハビリして体力を取り戻すことが必要なんです。

体が元気になると、心も元気になる

吉岡さん

マドレボニータの産後ケア教室に参加すると、社会復帰、パートナーとの関係について前向きになるということが、調査結果から分かっています。

ー 産後ケア教室の参加者は、みなさんどのような理由で参加するのでしょうか?

産後ケア教室に申し込む方の多くは、「シェイプアップしたい」「体の痛みを緩和させたい」という動機で参加されます。

でも面白いことに、みなさん参加した後は「心が前向きになりました」「社会と繋がろうと思いました」「パートナーと関係が回復しました」と答えていて、体よりもメンタルへの効果について言及するんです。

有酸素運動をしてしっかり汗をかくと、爽快感があって、ストレスも解消される。体力がつくと気持ちに余裕が出てきて、心も前向きになるんだと思います。


ー 確かに、体と心って密接に関係していますよね。

人は誰でも、どこか体が痛かったりだるかったりすると、前向きにはなれないですよね。なんとなくネガティブになりやすい。

だから、最初のステップでまず体を強くしてから、気持ちを整えていくことが大切ですね。

産後ケアは女性だけではなく、みんなの問題

吉岡さん

20年間掲げた「全ての母に産後ケア」というスローガンを、最近「全ての家族に産後ケア」に変えたマドレボニータ。その理由は、産後ケアは女性だけの問題ではないことを伝えるためだそう。

ー 20年間活動してきて、参加する女性たちの悩みに変化はありますか?

20年前は出産したら女性が仕事を辞めるのが当たり前という風潮でしたが、今は産後に復職できる制度が整い、仕事を続けることがスタンダードになっています。

でも、産後女性の悩みは20年経っても変わっていなくて、産後に体力が戻らない、パートナーとの関係がギクシャクしている、職場とうまくコミュニケーションが取れないとか。

産後の女性には、目にみえないハードルがまだまだあります。社会は表面的には変わってきているけれど、社会とつながりたいという女性たちの根っこにあるニーズに対して、まだまだ理解が進んでいません。


ー 復帰するために会社ときちんと話そうと言うけど、実際なかなかできないですよね。

上司と面談したいと思っても、上司の方に対応スキルや知識がなかったりすると、「育休中はしっかり休みなよ、まだ話さなくていいよ」と言われちゃうこともあるそうです。

だから、自分から相当アグレッシブに行く必要がある。そのためには体力とモチベーションが必要なのですが、その肝心の体力が産後には失われているし、そんな状態ではモチベーションも低下して当然ですよね。

だから産後の2〜6ヶ月をどう過ごすかが、復帰したあとのパフォーマンスに影響してくる、とも言えるんです。その期間、特になんのリハビリもせずに漠然と過ごしてしまうと、たとえ保育園が決まっていても「復帰したくない」っていうマインドになってしまうという調査結果もあります。

企業では、復帰した後の制度はあっても産休・育休中の支援は特にないんです。休み中のことは自己責任になっている。しかしその期間、育休中の女性が、きちんと運動して体力を取り戻して、モチベーション高く復職してくれれば、会社としてもプラスになるはずなんです。その部分を自己責任に任せてしまっているのは、企業にとっても復帰する人にとっても、もったいないなと思います。

だから、産後の女性は復帰するために体力を回復させる必要がある、ということを企業も認識してサポートする必要があると思います。それによって、復職した女性が力を発揮してくれたら、出産による退職率も減らせるし、退職した人の分の採用コストや教育コストも削減できるはずです。

パートナーと2人で産後ケアをしよう

夫婦 カップル 手 つなぐ

ー 産後、パートナーにイライラしている女性をよくSNSで見かけます。それはパートナーの理解がないからだと思うんですが、協力してもらうためにはどうしたら良いのでしょうか?

そもそも、「協力してもらう」という考え方が不自然なんですよね。

2人の子供なんだから、2人でどう責任をもって育てていくかを一緒に考えていくのが自然ではありませんか?やってあげる、やってもらうではなくて、一緒に育児にコミットするというマインドを2人が持っていることが大切。

それがなんでできないかというと、子供を育てるのは母親だっていう思い込みがお互いにあるからです。

男性にとって「自分にとって仕事は大切」と考えるのは、自然なことですよね。その時に、「じゃあ妻にとっても仕事が大切じゃないのか?いや、妻にとっても仕事は大切だよね」と男性が思えているかどうか。そのくらいお互いの人生を応援しあえるパートナーシップを築けているかどうか。

子供の世話や子育てにまつわる様々な手続きなども、女性ができないときに仕方がないから男性が手伝う、ではなく、どちらも同じ責任をもった育児の担い手としての意識をどれだけ共有できているか。それは子供が生まれてくる前から、2人で何度も話をして意識のすり合わせをしていく必要があると思います。

子供が生まれると、人生ガラッと変わります。産後は、パートナーとの関係が試されます。その認識が甘い夫婦が多いんですけど、生まれてしまうと時間がないので、本当は妊娠中から2人で産後の準備が必要なんです。


ー 確かに。産後のことは、女性だけの問題ではないですよね。

これまで、産後の女性向けに活動をしてきましたが、女性が復帰するために体力の回復が必要なことを企業は分かっていないし、産後は2人の関係が試されることをカップルは分かっていなくて、産後の問題をみんな理解できていないんですよね。

そんななか、どんなに妊産婦だけが頑張ってもいい結果にはつながらなくて。

産後ケアは女性だけの問題ではないので、「全ての家族に産後ケア」というスローガンに変えて、今後は活動していくことにしました。

産後ケアは決してただの贅沢ではない。自分の体と心を大切に。

吉岡さん

ー 産後ケア教室ではセルフケアの方法として、どのようなことを教えているのでしょうか?

正しい姿勢、肩こりを自分でほぐす方法、呼吸法、股関節の骨格調整、骨盤を使ったウォーキングの方法をお伝えしています。

これらは出産に関係なく、快適に暮らすためのベーシックな知識ですが、時間のない産後女性でも無理なく続けられるように、かなり簡略化したバージョンを伝えています。


ー 産後は忙しくて時間が取れないですもんね。

そうなんですけど、時間が取れないからケアできないという風に、子育てのために自分を犠牲にしないでほしいんです。

自分をセルフケアすることで元気になって、余ったエネルギーを家族に還元する。

産後の女性がセルフケアすることを、贅沢だとか罪悪感があるとか思わないでほしいですね。


ー では最後に、産後の女性へメッセージをお願いします。

子育ては、絶対に1人ではできません。パートナーがいる人は、2人の子供なのだから、一緒にコミットするというマインドセットを諦めずにずっと育てていってほしいです。

1人で抱え込むことは美徳ではなくて、パートナーが子供に関わる機会を奪っているともいえます。みんなで子育てをすることの豊かさを感じられるのが、子供を持つことの醍醐味。人に委ねて感謝すること、自分も誰かのために手を貸すこと、子育てを通してできる貴重な体験を重ねてほしいと思います。

出産した女性が、イキイキと自分の人生を生きる。そのためには産後ケアが必要不可欠である、という吉岡さんの強い思い、みなさんにも伝わったでしょうか。お近くにマドレボニータの産後ケア教室がある方は、ぜひ足を運んでみてくださいね。


吉岡マコ

吉岡マコ

よしおか まこ


特定非営利活動法人 マドレボニータ代表。1998年3月に出産。産後のつらさに驚き、自身の経験を元に同年9月「産後のボディケア&フィットネス教室」を立ち上げる。2007年11月NPO法人マドレボニータを設立。現在は、インストラクターの養成や企業の復職支援プログラムの普及、マドレ基金の運営、『産後白書』の発行など、社会への啓発・普及や調査研究にも力を入れている。

ポッケ専門家チーム

ポッケ専門家チーム

作者

お医者さんや助産師さん、保育士さんなど、その道のプロの先生たちに、ポッケ編集部がママたちのギモンを聞く連載です。

石川 瑛子

石川 瑛子

いしかわ ようこ

「こそだてハック」「ninaru baby」編集者2年目。大学時代はノルウェーに留学し、北欧の教育や子育て政策、ジェンダーについて研究していました。趣味は写真を撮ること。旅行先には欠かさず一眼レフを持っていきます。
https://eversense.co.jp/member/ishikawa-yoko