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産後女性の体と心をケアするマドレボニータとは【インタビュー前編】

こんにちは、編集部の石川です。

出産すると、赤ちゃんのお世話で毎日大忙し。「母」としての生活がスタートし、気づいたら自分のことは後回し、という人は多いのではないでしょうか?

産後の女性は、体はもちろん心もダメージを受けている状態。しかし産後の女性が本来の力を取り戻すために必要な社会的なケアは、すっぽりと抜け落ちてしまっているのが現状です。

そこで今回は、「全ての家族に産後ケア」というスローガンを掲げ、産後に特化したプログラム「産後ケア教室」を全国で展開する認定NPO法人マドレボニータの代表、吉岡マコさんに、その活動についてお話を伺いました。

自分自身の産後のつらさから始まったマドレボニータ

吉岡さん

すでに20歳になる息子さんがいらっしゃる吉岡さん。出産した当時、体は想像以上にボロボロでつらかったのに、産後の女性をサポートする環境が何もなかったことに驚いたそう。

ー マドレボニータを始めたきっかけはなんですか?

産後は自分自身とてもしんどくて、その辛さを解消したい!と思ったことが、産後ケア教室を始めたきっかけです。

自分で考案したエクササイズをして元気になってから、「同じようなつらい思いをしている人は他にも絶対にいる」と思ったので、マドレボニータとして活動をしていくことにしました。


ー 他にも同じような思いをしている人がいるから、と言う理由で実際に行動できるのはすごいですね。その原動力はなんだったのでしょうか?

産後は、どうしても社会との関わりがなくなってしまうんですよね。買い物に行くくらいしか、社会との接点がない。そういう状況になって、「もっと面白い人に会いたい」「社会とつながりたい」「人とつながる場を作りたい」という欲求が出てきたんです。

じゃあ、どうしたら社会と関われるだろうか?と考えた時に、私は自分が考案したプログラムを産後の女性に提供することができる、と思ったんです。

マドレボニータは、参加する女性へのリスペクトを1番大切にする

吉岡さん

マドレボニータの運営する「産後ケア教室」は、

● バランスボールを使った有酸素運動
● 参加者同士の対話の時間「シェアリング」
● セルフケア

の3つで構成されています。

マドレボニータの産後ケア教室で特徴的なのが、参加者を必ず本人のお名前で呼ぶこと。「〇〇ママ」とは絶対に呼びません。

ー 産後ケア教室で1番大切にしていることはなんですか?

参加する女性の尊厳を大切にすることです。インストラクターの言葉遣い1つとっても、マドレボニータのプログラム全体を通して徹底しています。

マドレボニータの産後ケア教室では、参加者同士も名前やあだ名で呼び合うので、「この子の名前なんだっけ?」と、逆に赤ちゃんの名前を知らない、ということもありました(笑)。

子供が生まれると、みんな「ママ」と一括りにされることがどこか当たり前になっていますが、私は「産後の女性」や「母親」という言葉を使うようにしています。

「ママ」である前に、1人の女性でしょ。

赤ちゃんとママ お出かけ

ー 子育てアプリ「ninaru baby」でも「〇〇ママ」と表記されることに対して、「自分の名前にしてほしい」という要望がくることもあります。一方で「ママ」と呼ばれることで母親としての実感をもつ人もいるのかと思うのですが…

母親になった喜びは、誰にでもあると思います。でも、社会から母親として一括りにして扱われて、自分のアイデンティティがママ一色になってしまうことに、違和感がある人がいるのも事実。

「ママ」と一括りにしてしまうことの弊害は、子供が大きくなったときに出ると思うんです。私の息子はもう20歳ですが、20歳になったら、もう私は「ママ」とかではないですよね(笑)。

「子供が20歳になったとき、一人の大人として子供と対等に話せるかどうか」を考えてみると、ずっと「ママ」でしかなかった人が、いきなり変わるのは難しいですよね。かといって、子供が生まれて何も変わらない人はいませんから、産んだ後に改めて、自分自身のアイデンティティを再構築する必要があるんです。


ー 私自身ノルウェーに留学して「母親になっても1人の女性である」という考え方が当たり前の環境を経験したので、吉岡さんの考え方に共感しています。ただ、価値観を変えていくのは、大変ではないですか?

私たちが声をあげることで、同じように思っている人、言われてみれば確かにそうかもと開眼する人など、仲間がどんどん増えてきているのを実感しています。本当はそう思っているのに、周りの人が誰も言わないから言えないという人も多いんです。

自分らしさを脇に置いて立派な「ママ」になろうとすることで、産後うつになってしまう人もいます。一人でも心から共感できる仲間に出会うことで、自分らしさを開拓しながら人生を歩める人は多いと思います。

「あなたはどうしたいの?」その問いかけが引き出す自分らしさ

マドレボニータ 体験

マドレボニータの産後ケア教室でもう一つ欠かせないのが、「シェアリング」の時間。

まずは1人で絵を描きながら自分に向き合い、次に2人1組で気持ちを話し、聞いてもらうという作業をし、最後に全員で感想をシェアします。

このシェアリングの時間に話すテーマは、「人生」「仕事」「パートナシップ」という、非常に重要でありながら、普段生活しているなかではあまり腰を据えて考えたり語ったりできないトピックです。

ー シェアリングの時間で大切にしていることはなんですか?

自分を主語にすることと、3つのテーマからブレないことです。

人生、仕事、パートナーシップというテーマは、出産によって大きく変化する重要なテーマでありながら、普段なかなかゆっくり考えることができない。みんななんとなく不安や不満があるのに、そのまま時間が過ぎてしまう。それはあまりにももったいないので、マドレボニータは、あえてそこに向き合うことを促します。

その不満や不安の根底にあるものは自分の本当の希望につながっているので、自分自身に向き合って考えて言語化して、人と分かち合えるようにすることが大切なんです。


ー 結構重いテーマですが、みなさん最初から話せるのでしょうか?

最初は「え〜、そんなの分からない」って言う方が多いです。

産後は誰でも目の前のことをこなすのに精一杯で、不満はあるけど、「それはどうして?」「自分はどうしたいの?」と問われることも、考える時間もないんですよね。

でも、初回のレッスンで話せないと、次のレッスンまでに考えてくるんですよね。なので、回を重ねるごとにどんどん喋るようになるし、言うことが変化する人もいます。

たとえば初回のレッスンで「仕事を辞めてもいいかもしれない…」と言っていた人が、最後のレッスンでは「仕事に対する情熱が蘇ってきました。上司と面談してきます!」と言うことも。これは非常に多いケースです。


ー すごい…!そんなに変わるのですね。

運動をして体力が戻ることで本来の自分が戻ってくる、色々な人の話を聞くことで刺激を受ける、自分の話をじっくり聞いてもらえて自分の本当の気持ちに気づく。

この3つによって、みなさん自分らしさを取り戻すんだと思います。


ー 確かに、1人で考えているとモヤモヤして終わってしまいますもんね。ポジティブな話を聞いていると、自分も前向きになれそうです。

その通りです。

愚痴を言ってガス抜きをするのではなく、自分に向き合って自分で考えて、それを自分以外の誰かと分かち合う場なのです。

マドレボニータとの出会いが、人生を変える

吉岡さん

マドレボニータを創設して20年。今では全国に70ヶ所も教室があります。

長年、産後の女性たちと関わってきた吉岡さんに、印象的な言葉を聞いてみました。

ー 参加者に言われて印象に残っている言葉はありますか?

産後ダイエットをしたいとか、痩せたいって言って教室に参加される方が多いんですが、教室が終わってみると「人生が変わりました」と言ってくれる方が多いんです。これは大袈裟ではなく。

産後って、人生の転換期なのに、放っておけばあっという間に終わってしまう。

でもその大事な時期に、マドレボニータの産後ケア教室に参加してちゃんと自分に向き合ってケアすることで、魅力的な友達に出会えたり、パートナーときちんと向き合えたり、楽しく仕事ができたりするから、人生が変わったって言ってくれるんだと思います。


インタビューの後編では、吉岡さんがマドレボニータの活動を通して伝えたい「産後ケアの大切さ」についてご紹介します。


マドレボニータが伝えたい「産後ケア」の大切さ【インタビュー後編】

マドレボニータが伝えたい「産後ケア」の大切さ【インタビュー後編】


編集部員によるマドレボニータの産後ケア教室の体験記は、こちらを読んでみてくださいね。



吉岡マコ

吉岡マコ

よしおか まこ


特定非営利活動法人 マドレボニータ代表。1998年3月に出産。産後のつらさに驚き、自身の経験を元に同年9月「産後のボディケア&フィットネス教室」を立ち上げる。2007年11月NPO法人マドレボニータを設立。現在は、インストラクターの養成や企業の復職支援プログラムの普及、マドレ基金の運営、『産後白書』の発行など、社会への啓発・普及や調査研究にも力を入れている。

ポッケ専門家チーム

ポッケ専門家チーム

作者

お医者さんや助産師さん、保育士さんなど、その道のプロの先生たちに、ポッケ編集部がママたちのギモンを聞く連載です。

石川 瑛子

石川 瑛子

いしかわ ようこ

「こそだてハック」「ninaru baby」編集者2年目。大学時代はノルウェーに留学し、北欧の教育や子育て政策、ジェンダーについて研究していました。趣味は写真を撮ること。旅行先には欠かさず一眼レフを持っていきます。
https://eversense.co.jp/member/ishikawa-yoko