ー神奈川県にある、1軒の助産院ー
「おっぱいが出なくて、足りているのか不安で」「授乳、授乳で寝る暇がなくて、もう限界です」
そんな悩みを抱えて、不安と緊張で張り詰めた表情のママが、くる日もくる日も訪れます。
これは、365日、ママと一緒に悩み、喜び、涙する、ある助産院の院長、みつ先生の日記です。
【♯9】育児のイライラ
「私は息子を母乳で育てたのに…」
わたしのエッセイも、早いもので9回目になりました。
もう、あと1回で終わりになるので、今日はママたちに伝えておきたいことについてお話します。
先日ね、助産師をやっているママが駆け込んで来ました、わんわん泣きながら。
そのママは、お義母さんにこう言われたらしいの。
「私は息子をおっぱいで育てたのにねぇ。なんであなたはおっぱいが出ないの?」って。
そのママは悔しくて、悲しくて、苦しくて、ただただ嗚咽を漏らしていたの。
助産師というお仕事をしている自負もあったかもしれないし、それ以上に周りからのプレッシャーもあったと思うの。
辛いよね、そんな言葉を投げられたら。
「なんでそんなにおっぱいに固執するの?」
逆にね、こういうケースもあるの。
母乳での育児を希望しているママがいてね、少しでもおっぱいの出をよくしようとして食べ物に気をつけたり、母乳マッサージに来たりしていたの。
赤ちゃんのために、ほんとうに頑張っていたのよ。
それなのに、お義母さんにこう言われちゃった。
「私は息子をミルクで育てたけれど、こんなに大きく立派に育ったでしょ?」
「もう、ミルクでいいじゃない」
「あなた、なんでそんなにおっぱい、おっぱいって固執するの?」
赤ちゃんのためにママは頑張っているのに切ないよね、苦しいよね、悔しいよね。
そうやって子供を育てたの、お義母さんは
赤ちゃんを育てていると、周りの人のちょっとしたひと言にイライラしてしまうことって少なくありません。
そういうとき、わたしにはママ達の心の悲鳴を受け止めることしかできないの。
おっぱいで子供を育てたお義母さんは、おっぱいがいいって言う。
ミルクで子供を育てたお義母さんは、ミルクでいいって言う。
お義母さんはそうやって子供を育てた。だから、そう言うだけなの。でも、ママの悔しさはとってもわかる。
だからこそ、わたしは気持ちを受け止めた後でママにこう言うの。
「ママ、そこでお義母さんと戦わなくていいのよ。ここに来て、悔しいこと、悲しいこと、なんでもいいから話していって」
「嫌な気持ちをここに置いていけば、また赤ちゃんがかわいい、私なりの育児を頑張ろうってそう思えるでしょ?」
ママ、自分がしたい育児をしようね
ここに来るママたちは、いろいろなことを知っています。
周りの人に言われたこと、自分で調べたこと、ほんとういろいろな情報を背負って、がんじがらめになってやって来ます。
産院でそう習ったかもしれない。
健診でそう言われたかもしれない。
家族やママ友からそう聞いたかもしれない。
雑誌やネットにそう書いてあったかもしれない。
でもね、その情報によって苦しいって思うのなら、イライラしちゃうのなら、一度目をつぶって、耳をふさいでもいいんじゃない?
ママ、育児に正解なんてないんだよ。
育児が楽しい、赤ちゃんがかわいいって思えること。それ以上の幸せなんて、ないでしょ?
佐藤みつ
さとう みつ
1979年 神奈川県立衛生看護専門学校助産師科卒業。大学病院・個人病院での勤務、自治体の新生児訪問などを経て、「ママが気軽に立ち寄れる場所を作ってあげたい」という気持ちから、1993年に助産院「マタニティハウスSATO」を開業。分娩やおっぱいマッサージ、ベビーマッサージなどを行っています。「昔、取り上げた子がママになって、その子がお産をしに来てくれるなんて幸せでしょ?」
佐藤みつ
さとう・みつ