頑張り過ぎて辛い思いをしている育児中のママが、「赤ちゃんと一緒に自分の心も抱きしめてもらえるように」と願いを込めて始めた連載「頑張り過ぎのママへ」。第4回目のテーマは、ワンオペ育児の悩みと夫婦円満の秘訣、周囲の人間関係を円滑にするコツについてです。
前回に引き続き、子育てに悩む女性から、末期の病気を患う方まで、数多くの不安な心に寄り添ってきたバースセラピストの志村季世恵さんに、お話を伺いました。
ワンオペ育児、どうか1人で抱え込まないで…
-「パパが仕事で忙しい」もしくはシングル育児などの事情で、1人で育児を担うために辛い思いをしているママも多いと思います。上手な心の保ち方はありますか?
理想を言えば、パパとママが同じくらいコミットして、育児に関われたらと思うのですが、なかなか難しい場合もありますよね。
家事などに加えて、育児をママ1人でやらなければならないのは、身体的にも精神的にも本当に大変なことで、ストレスや不安も大きいと思います。
私も一人目の時はワンオペで、「赤ちゃんと私はこの世界で二人ぼっちなのだ」と感じ、涙をポロポロこぼすこともありました。
毎日夜中に帰ってくるパパに不安や辛さを伝えても分かってもらえず、そのまますぐに寝てしまう。パパも疲れているのはわかるけれど、そんな状況だと「何でわかってくれないの」「私ばかりやっている」というパパへの不満の感情でいっぱいになってしまうこともあるかと思います。
夫婦2人で暮らしていた時は起きなかったことが、赤ちゃんの存在で家族の「カタチ」が変化する。この時期は家族にとって大きな過渡期とも言えるのです。
感情を一旦手放して冷静にパパと向き合おう
-ママが「辛い」と感じたとき、パパへの不満を上手に伝えるコツはありますか?
毎日の育児に疲れがたまり、ワンオペが続くと、ついつい「なんで手伝ってくれないの!」などとパパへの不満も募り、感情的になってしまいますよね。そんなママたちの話も多く聞いてきました。
そこで重要なのが、ひと呼吸置いてみること。とはいえ、怒っている時は少し難しいことですが、ちょっとここで整理してみましょう。パパに感情をぶつけたいのか、理解してほしいのか。
男性は、どちらかというと頭できちんと理解してから動きたいタイプの方が多いようです。感情的になるのではなく冷静に、論理的にママの不安や心配を伝えるということが大切です。
私は昨夜眠れなかったので、パパの協力があると昼寝ができます、という感じに、具体的に「○○してもらえると助かる」「○○をしてください」と伝えること。ここで、やってほしいことの他に感情を混ぜすぎると、要件は伝わりにくくなってしまうのです。
また、子育てに対しての想いを話し合う時間を持つのはどうでしょう。忙しくてイライラしている時は育児への関わりが少ないことを責めてしまいがちですが、そうではなくて、こんな家族にしていこうというテーマです。
そこから、夫婦の子育てへの思いや、できることを明確にしてみてはいかがでしょうか?
①赤ちゃんが生まれたことで、改めてどんな家族でいたいか、どんな家族を築いていきたいか?
②どんなこどもに育って欲しいのか?
③どんな親でいたいか?
④そのために夫婦でどう育児をしていきたいか?
⑤それに対して今日からまず、お互いができることは何か?
お互いの育児に対する考えや行動を具体的に解決策に落とし込むことで、パパ自身もママの日頃の苦労や心配事を汲み取りやすくなると思います。
こどもが夜寝たあとの数十分、夫婦で話せるティータイムの時間を作り、「一緒にこんな子育てができたら良いね」「こんな家族になりたいね」なんて会話をしてみてはいかがですか?
そしてもう一つ大切なこと。赤ちゃんが生まれると夫婦の話題は赤ちゃん中心になります。でも、パパも外では頑張っています。ときどきパパの話を聞いてみたり、労いの言葉があったりすると、優しい関係が戻ってくることも。
お互いに「ありがとう」「お疲れ様」が言える2人でありたいですね。
便利さを手放して、豊かさを手に入れよう
-産後はこどもとの時間が中心になり、人間関係が疎遠になってしまうママも多いと思います。人間関係を円滑にするためのコツはありますか?
まず、何でも人に聞いてみるのが良いと思います。
ご近所の方に、「この辺の小児科で良いところはありますか?」と尋ねてみるとかね。ネットで調べれば早いかもしれないけれど、生の声ならではの意見を聞くことができるかもしれませんよ。そこからコミュニケーションが深まることも期待できます。
「近くの赤ちゃんを連れても入りやすい美味しいお店」とかでも、もちろんOKです。昔から住んでいらっしゃる方だったら、「氏神様はどこですか?」とかね。お宮参りの情報収集もできますよ。
直接的な関わりがママの孤独を減らしてくれることも多いのです。目と目を合わせ、声で聞くこと、それがコミュニケーションの一番の肝です。
ご近所の方にこども好きは必ずいます。もしも声をかけられたら、何か聞かれた方も嬉しいし、何かしてあげたいなという気持ちが自然と沸くんですよ。
確かにネットで調べてしまえば簡単ですが、ひとこと言葉を交わしただけで、思わぬところで支えになってくれることもあります。
私が子育てしている時は困ったら、近所の方にたくさん聞いていました。そうしたら、夜泣きが酷いとき、わざわざ心配して「うちのこどもにはこれが効いたから」って、夜泣き・かんの虫に効くというお薬を持ってきてくださったり、やさしい声をたくさん掛けていただいたりしました。
「夜泣きで近所に迷惑がかかってしまう…」と悪く思っていたのですが、そんなことにはひとことも触れず、励ましてくれて、助けてくれた。たった一言のコミュニケーションの積み重ねで、スマホとにらめっこしていては決して得ることのできない応援団が、ご近所にたくさんできたんです。
「便利さを手放して、豊かさを手に入れよう」。これは、私がカウンセリングをしたママたちに、よく伝えていた言葉でもあります。
もちろん、情報は本当に大切で、知識を増やすためにもインターネットや書籍など、色々な場所から取り入れること自体は良いことだと思います。でもそれだけではなく、人と人との関わりの中から生まれる情報もとても大切。
最初は億劫だと感じるかもしれませんが、両方を大切にして、バランスよく組み合わせて、ぜひ心地よい人間関係を作ってみてくださいね。
それはやがて、赤ちゃんの成長にも良い影響を与えてくれます。
世界が広がる出会いはママ友だけではない
-近年、ママ友ができなくて悩むママも多いと聞きます。それに対して志村さんはどう思いますか?
私自身は、ママ友は病院で出会った方が1人だけ。価値観の合う、今でも大切な友人です。他にはいませんでした。無理をして作る必要はないと思うんですよね。
さっきお話した通り、私はご近所の人に、まずは聞いて、頼っていました。こどものことを可愛がってくれる人は、ママ友以外でも作れます。
同じ世代のこどもだけとの関わりよりも、いろいろな世代のお子さんを持ったママや子育てを終えた近所の方など、いろいろな人が関わることで、情報の偏りも少なくなるかもしれませんね。
だから、決して「ママ友ができない」と悩まないでください。支えてくれたり、おしゃべりできる人はきっとすぐ側にいるはず。
自分が心地良いと感じる場所で、ぜひ素敵な出会いを見つけてみてください。
型にはまらない自分らしさが、ママをさらに素敵な姿に導いてくれる
-最後に、志村さんから人間関係で悩むママへメッセージをお願いいたします。
こどもと自分のスタイルに合った人との付き合い方を、型にはめず探ってみるのはいかがでしょうか?
その方がずっと、自分らしさを持った格好良くて素敵なママになれると私は思いますよ。
志村季世恵
しむら きよえ
バースセラピスト、子ども環境会議代表、一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ代表。妊婦や子育てに悩む母、心にトラブルを抱える人をメインにカウンセリング。その活動を通し「こども環境会議」を設立。1999年からはダイアログ・イン・ザ・ダーク理事となり、多様性への理解と世の中に対話の必要性を伝えている。4児の母。著書に『ママ・マインド』(岩崎書店)、『親と子が育てられるとき』(内田也哉子氏との共著、岩波アクティブ新書)など。
ママ・マインド