頑張り過ぎて辛い思いをしている育児中のママが、「赤ちゃんと一緒に自分の心も抱きしめてもらえるように」と願いを込めて始めた連載「頑張り過ぎのママへ」。第2回目のテーマは、母乳育児のプレッシャーについてです。
前回に引き続き、子育てに悩む女性から、末期の病気を患う方まで、数多くの不安な心に寄り添ってきたバースセラピストの志村季世恵さんにお話を伺いました。
母乳育児のプレッシャーから解放されよう
-世間では母乳育児を良しとする風潮があり、母乳育児へのプレッシャーを感じているママも多いようですが、どう思われますか?
「母乳で育てているの?」という言葉、母乳が出なくて悩んでいるママにとっては、言われたら胸が苦しくなるひと言ですよね。
母乳はなんとなく自然な感じがするし、周りのママたちが苦労なく母乳で赤ちゃんを育てていたら、「なんで私だけ出ないんだろう」と劣等感を覚えたり、赤ちゃんがかわいそうに思えてきたりと悲しくなってくることもあると思います。
でも、聞いた側からしたら、実は深い意味がない場合も意外と多いんです。しかも、最近では『母乳神話』と呼ばれることも多く、母乳育児でもミルクでも、赤ちゃんはしっかり育ちます。
だから、まずは自分を責めないでください。そして、不安を少しでも和らげるために、信頼できる先輩ママ、特にミルク育児をしてきた方のお話も聞いてみてください。
「そんなの変わらないわよ」と言うのではないかしら。一人ひとり育ち方は異なるのだから、その特別な変化は目に見えてわからないですよね。
知識を身につけて、「ミルクで育てていますよ」と笑顔で言えるような状態に、少しずつなっていってほしいなと思います。
母乳育児とミルク育児、どちらにも良さはある
帝王切開と自然分娩の違いとも同じで、赤ちゃんの命を守るために帝王切開だっただけで、自然分娩が一番だなんてことはない。
私は、大勢のママのメンタルやボディのケアをしてきましたが、母乳の出ないママにお会いしたときにはこのようなお話をしていました。
「おっぱいが出ないと悲しくなるね。わが子に自分のお乳を与えたいって思うのはよく分かる。それは母親としてわが子を想う気持ちだものね。では、今度は赤ちゃんの立場になって考えてみてくれる?あなたがミルクで育ったとしよう。そのことを、あなたのお母さんはとっても心痛め悲しんでいるの。どう思う?」って。
こう問いかけると驚いた顔をして「そんなこと気にしないで!と母に伝えます」と答えます。
きっとあなたの赤ちゃんも同じ。赤ちゃんは、おっぱいが出ても出なくてもママが世界一好きなんです。あなたもそう思いませんか?
母乳かミルクかではなくママの温もりが一番
-一生懸命になり過ぎて、当事者になると気付けない場合もありますよね。
ひとつのことにこだわってしまうあまり、そこで苦しまなくて良いのにな…と人を見て思った経験って、ママたちも一度はあると思うんですよ。
それが今、まさに自分自身に起きているんだなと思い返して、肩の力を少し抜くことができれば、楽になるかもしれませんね。
母乳で育てられないと、母親としてちょっとした心の痛みや、罪悪感を感じる方もいると思います。しかしその罪悪感が、何より赤ちゃんにとってはマイナスになってしまうかもしれないんです。
先ほどからお話している通り、ミルク育児で可哀想なことは何もありません。大事なことは、ママが愛情をもって接しているということ。
ママが不安やストレスを溜めていることは不思議と赤ちゃんに伝わってしまいます。「この子といる時間が幸せなんだ!」と、堂々と笑顔で哺乳瓶を使ってミルクを飲ませ、母乳育児と同じようにやさしく抱っこしてあげれば大丈夫。
その気持ちの良い抱っこで、愛情は十分伝わりますよ。
赤ちゃんとふれ合い見つめ合う、その至福は変わらない
赤ちゃんって母乳を飲んでいるときは、ママの目をじっと見続けて飲むんですよね。ごくんごくんて。
それは一番幸せな時間でもあるんだけど、ミルクであっても赤ちゃんはちゃんとママの目を見てごくんごくんてするんです。その至福は変わらないんですよ。
だからママは赤ちゃんの顔をよく見て、そして微笑んであげて欲しいです。
ミルク育児だから味わえる幸せ
ミルク育児だからこそ感じられる幸せや楽しみも、たくさんありますよ。
まず、ミルクは味も美味しいんです。赤ちゃんを見ても分かるように、ミルクだって母乳と同じように美味しそうに飲みますよね。もっとちょうだい、もっとちょうだいって。
あと、ママ以外の人間もミルクだと与えることができるしね。幸せを分かち合えるんだから、とても良い機会を与えてくれているんですよ。
授乳のシーンを多くの人と共有できるって、素敵ですよね。おばあちゃんやおじいちゃんにも、兄弟にも、もちろんパパにも。
「ミルクをあげるときは赤ちゃんの顔を見て、笑ってあげてね」とママが伝えれば、赤ちゃんはもちろん、関わったみんなが幸せな気持ちになりますよ。
母乳のためにママができること
-母乳で育てたいと考えているママへアドバイスはありますか?
それでも母乳を出したいと考えるママに、お伝えしていることは下記の3つです。
●和食中心の食事をとること。
●母乳マッサージが有効。
●ブラジャーは使用せず、乳腺の発達を邪魔しない乳帯などがおすすめ(特にワイヤー入りのブラジャーは避けるべき)。
母乳に良い食事・控えるべき食事
授乳中は、ママの体のためにもバランスの良い食事が大切です(※1)。母乳のために私がおすすめしている食事は、お米、味噌汁、野菜、脂肪分の少ない鶏肉、豚肉、魚です。そして食事は三食、お米を中心にバランス良く食べること。
乳腺を詰まらせてしまうとお乳の出も悪くなり、乳腺炎などのトラブルが起きやすくなる危険性もあります。
母乳育児を軌道に乗せるまでは、ピザ、フライ、天ぷらなど、脂肪分の高い食事はあまり取り過ぎないように心掛けると良いかもしれません。
母乳マッサージもおすすめ
あとは、母乳マッサージに通うこともおすすめします。特に桶谷式母乳マッサージは痛みを伴わず、且つ効果の高いマッサージとされています。
母乳は与えれば与えるほど増える
母乳は与えれば与えるほど、母乳量が増えていきます。授乳の間隔を3時間以上あけずに、全てを赤ちゃんに与えてしまったらなくなってしまうかも…と不安がらず、カラカラになるほど与えてみてください。
するとお母さんの体は、これでは足らないのか!もっと生産性を高めよう!と量を増やすのですよ。
赤ちゃんが一番欲しいのはママの笑顔
私は『産んだら育つ!』(※)という本を過去に書いたことがあるんですけど、本当にこどもは産まれたら育っていく力が備わっていますからね。
ミルク育児でも母乳育児でも、たっぷりの愛情を受ければこどもはしっかり育つ。今の状況をとにかく楽しんで育児をしたら良いと思います。
あと親が思っている以上に、こどもは常に親の笑顔を欲しているんです。
母乳より、ミルクより、赤ちゃんが何よりも欲しいのはママの笑顔なんですから。それだけは忘れずにいて欲しいと思います。
次回、第3回目は「赤ちゃんの夜泣き。愛しい我が子を疎ましく思ってしまうのはおかしいこと?」というテーマでお送りします。
志村季世恵
しむら きよえ
バースセラピスト、子ども環境会議代表、一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ代表。妊婦や子育てに悩む母、心にトラブルを抱える人をメインにカウンセリング。その活動を通し「こども環境会議」を設立。1999年からはダイアログ・イン・ザ・ダーク理事となり、多様性への理解と世の中に対話の必要性を伝えている。4児の母。著書に『ママ・マインド』(岩崎書店)、『親と子が育てられるとき』(内田也哉子氏との共著、岩波アクティブ新書)など。
ママ・マインド