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一緒にひとつのシャッターを押そう|幡野広志 連載「ラブレター」第6回


もしあなたが今、余命3年と宣告されたら。残された時間の中で、何を思い、何を考え、どんな行動を起こしたいと思うだろうか。それがもし、愛する伴侶と、子どもを残して死を迎えることがわかったとしたらー?
余命3年の末期癌と宣告された写真家、幡野広志さん。この連載は、2歳の息子と妻をもつ35歳の一人の写真家による妻へのラブレターである。
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僕らは似た者夫婦?

「似た者夫婦」という言葉がある。

自分の周りにいる夫婦を数組思い浮かべてみたけれど、確かに、性格や言動、雰囲気など、どこか似ているように感じる。似た者同士だから結婚したのか、長年連れ添ったことで似てくるのかはわからない。

僕と妻はどうだろうか?

似ているかどうかは第三者が判断することかもしれないけど、僕は似ていないと思う。食事の好みや休日の過ごし方、物事の考え方や人生観、好きなものの全てが違う。

それでも日常的に問題なく過ごしているのは、嫌いなものの価値観が同じだからかもしれない。嫌いなものが同じなので、揉めることが少ない。

妻の撮る写真。

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ただ一年前から薄々と気づいては、あまり考えないようにしていたことだけど、一つ確実に似てきたものがある。それは妻の撮る写真だ。とくに息子を撮る写真が似てきた。

先日、息子の誕生日に家族旅行で旅館に泊まった。浴衣を着て可愛さが倍増した息子とベッドで遊んでいたら、その様子を妻は僕のカメラで撮影した。その写真が驚くほど僕の撮る写真に似ていて、寿命が少し短くなるぐらい驚いた。

僕が設定した機材で、料理の味付けをするように僕がパソコンで色味を調整しているので、雰囲気が似るのはテクニカル的な部分で理解できる。けど、それだけではない何かがある。

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写真が似てきたことに薄々気づきつつも考えないようにしていた理由は、悔しいからだ。僕自身が持ち合わせていないためか、僕は「才能」という言葉を信じていない。だが、妻にはそういった才能があるのだろうか?

僕は18歳から写真を始めて、単純計算をしてもこれまでに100万回近くシャッターを押してきた。勉強をして辛いことも、楽しいこともあったが、写真に関しては苦労をしてきた。こんなにも、才能でアッサリと追いつかれるものなのか?

写真作品を語るときに一番ダサいことは、撮影者の苦労を語る行為だ。つまり僕はいま、一番ダサい。

シャッターを押せば誰でも撮れる写真だからこそ、その人の人柄が写る。写真というのは被写体を写しているようで、じつは撮影者との関係性が写る。

今月のコラムに載せている写真は全て妻が撮影した写真だ。

一緒にひとつのシャッターを押そう。

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健康なときは長期の出張が多かったので、家を出るまえに僕のカメラを置いて行ったよね。優くんの成長を記録するために置いて行ったのだけど、君の撮る写真は優くんのとの関係性がよく写っていて、それを見るのが出張から帰るときの楽しみになっていました。

最近は僕がずっと家にいるので、君が写真を撮る機会が減ったけど、君の写真は僕の写真によく似ています。僕の写真と君の写真を一緒にしていると、どっちが撮影したのか僕もわからなくなります。

君の写真が僕に似ているのは、僕の写真をよく見ているからだと思います。僕が撮影した優くんの写真を君が好きなように、君が撮影した優くんの写真が僕は好きです。

まさか僕と君の写真が似るとは夢にも思わなかったけど、これは良いことだと思います。僕がいつか優くんの写真を撮れなくなったら、君が撮ってあげればいいからです。君の写真の基礎に僕がいれば、ずっと僕が優くんを撮り続けられるような気がします。それは写真家として幸せなことだし、一つの気がかりが消えるような気持ちです。

でもいまは僕が優くんを撮ります。

だから君は僕を撮ってほしい。

お父さんとお母さんの関係性が写った写真を、優くんに見せてあげてください。君の写真を見続けた優くんが、成長して写真を撮ったときどんな写真を撮るのだろう?もしも少しでも君の写真に似たら、その基礎にはやっぱり僕がいます。

それが優くんにとって幸せなことかどうかはわからないけど、それを想像するのは、僕にとっては幸せなことです。

また書きます。

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幡野広志

はたの・ひろし

1983年生まれ。
写真家・猟師。妻と子(2歳)との3人暮らし。2018年1月、多発性骨髄腫という原因不明の血液の癌(ステージ3)が判明。10万人に5人の割合で発症する珍しい癌で、40歳未満での発症は非常に稀。現代の医療で治すことはできず、余命は3年と診断されている。 https://note.mu/hatanohiroshi