【連載第18回 うんでも、うまずとも。】流産後の感情コントロール


妊娠はするものの流産や死産を繰り返す「不育症」。原因が分かれば治療法が分かる場合もあるが、検査するもまったく異常なし。そして現在まで、いつか奇跡的に出産までたどり着けることを信じて、ただひたすら子づくりに励む日々が続く。そんななかで見つけた、養子縁組という、もうひとつの“母になる方法”。そんな42歳の編集者&バンドマンによる不妊治療と養子縁組の泣き笑い日記。連載18回、3度目の掻爬手術から立ち直るための日々について。

感情を垂れ流すこと

吉田けい うんでも、うまずとも。

4回めの流産、3回めの掻爬(そうは)手術を乗り越え、私が気がかりだったのは、自分のストレスについてだった。

前回の流産で、おそらく感情がフリーズした状態となり、泣きもせず、淡々と過ごそうとしていたら、体が食べ物を受け付けなくなってしまったから。

1ヶ月も、まともに食事ができず、吐いたり下したりを繰り返すのは、さすがにキツかった。

でも、悲しいとか苦しいとか、そういった自分の感情に気づいて、受け入れて、解消していかないと、体が思いきり悲しんで苦しんでしまうことになると知ることができた。

体が悲鳴を上げて、やっと、「あぁ、私は悲しかったんだ」と気づいたくらい、あの時の私は、自分の感情を無意識に見ないようにして無視していたのだと思う。

だから。今回は意識的に、感情を垂れ流していった。きっとストレスを抱えているだろう夫と一緒に。

相変わらず、外出先で妊婦さんや赤ちゃん連れを見かけたり、SNSなどで我が子自慢を目にしたりすると、気分が落ち込んだ。

そんな時は、シャーーーーッと猫のように威嚇音を発するようにした。(バカみたいですが、これが効くんです)

「かわいい赤ちゃんを連れていて憎らしい! シャーーーーーッ!!!!」「3人も子どもがいるなら、1人くらい預からせてほしい! 羨ましい!! シャーーーーッ!!!」

夫婦ふたりでシャーシャー言っていた。

それはそれで、心の闇というか心の病みをさらけだすようで、夫婦以外に知られるとかなりヤバイ気もするのですが、あの頃の私には、これが必要だったのです。たぶん。たぶんね。

そのおかげで、胃腸炎にもならずに済んだしね。

私は無価値な人間なのかも

それでも一度だけ。ちょっとしたことで大号泣した日があった。

気分転換のため、クローゼットの整理をして、不要になった洋服やバッグを近所のリサイクルショップに売りにいった時のこと。

それなりの値段で買い取ってもらえるだろうと思っていた、なけなしのブランドものが、少し前の型であるとか人気がないとかの理由で、1つも買い取ってもらえなかったのだ。

今なら、そんなこともあるよね、と笑える。

でも、あの時の私には、とてもショックだった。売れなかった衣類を持ち帰り、夫に報告した途端、涙があふれてきた。はじめは、その涙がなんなのか分からず、自分でもびっくりした。

それでも、涙を垂れ流していくうちに、少しずつ涙の理由が見えてきた。

自分の衣類に価値がないとされたことで、自分自身が価値がないように感じ、子どもを産めない無価値な人間であると、自信喪失を深めたのだと思う。

泣きじゃくりながら、自分の涙の理由を夫に説明した。

夫は「あなたが大切だ」「自分にとって必要だ」というようなことを言ってくれた。すると、涙の波が引いていった。まるで痛み止めを飲んだら、嘘のように頭痛がおさまるように。

夫の言葉は私にとっての薬だった。

とはいえ、情緒不安定となったのは一度だけ。感情垂れ流し作戦は、私には向いているのかなと思った。

自分の感情と向き合うこと。それがとても大切なのだ。

そうやって、半年かけて精神的にも肉体的にも回復していき、翌年の2017年には体外受精を再開するのだが、また別の壁にぶつかってしまう。

続きは第19回にて。

写真のこと:東京には、あんまり雪は積もらない。でも近所の神社の松には、冬になるとちゃんと雪吊が施される。木の枝を守るために、人の手により竹と縄でつくられる雪吊。優しくて美しい芸術作品だなって思う。


吉田けい

吉田けい




1976年生まれ。編集者・バンドマン。2010年、6歳下の夫と婚前同棲をスタートして早々に、初めての妊娠&流産を経験。翌年に入籍するも、やっとの妊娠がすべて流産という結果に終わる。その後、自然妊娠に限界を感じ、40歳になる2016年に体外受精を開始。2018年11月、構成・編集を手がけた書籍『LGBTと家族のコトバ』(双葉社)を出版。

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