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育児ってこういうことでいいんだ|幡野広志 連載「ラブレター」第15回


2017年末に余命3年の末期癌と宣告された写真家の幡野広志さん。この連載は、2歳の息子と妻をもつ36歳の一人の写真家による、妻へのラブレターである。

子どもの成長と同じように

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息子が保育園に入園してから一年がたち、もも組からさくら組に進級した。
果物から植物に進級したので、来年は農作物へ進級するのかな。男爵いも組だったらちょっとやだな。

息子は一年前とくらべると言葉をよくしゃべるようになった。
一年前はイヤなことの意思表示が泣くことだけだったのが、さいきんでは言葉ではっきりと“お父さん、ヤダッ!”といってくれる。

そろそろ言葉をオブラートに包むということ教えたいけど、ぼくもあまり包めていないので、まずはぼくがオブラートに包むことを自習しなければいけない。
やっぱり親ができていないことを、子どもにやらせようとするのは説得力に欠ける。

外へ遊びに行きたいときや、YouTubeをみたいときも言葉で意思表示してくれるので、いったいなにがしたいのだろう?という困ることが激減した。一年前にくらべると育児は楽になったように感じる。

「よその子とゴーヤの成長は早い。」って博多華丸さんがいっていたけど、自分の子どもの成長だって振り返ればあっという間だ。
ゴーヤは苦手なので育てたことがないからわからないけど、きっとゴーヤの成長も早いのだろう。

ぼくにとってはあっという間の一年だったけど、それは36年生きたうちの一年だからそう感じることだ。
つまり、子どもとゴーヤの成長だけが早いのでなく、大人の成長もキュウリの成長も早いのだ。
子どもとゴーヤよりも伸びしろが少ないから、実感があまりないからかもしれないど、大人だって成長している。

2歳10ヶ月の息子にとっての保育園ですごした一年間のできごとは、人生の大部分をしめている。
きっと時間的に長く感じて、昨日できなかったことが今日はできるという成長を本人も自覚しただろう。

いまのぼくの一番の先生は優くん

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保育園のお迎えにきみと一緒に行ったら、優くんがさくら組のあたらしいお部屋にあるものを、一つ一つぼくに教えてくれました。
モデルルームの営業マンみたいだなぁ、なんておもいながら聞いてたけど、きっとお父さんに伝えたいんだろうね。
優くんと一緒にいると、伝えたいという気持ちが人間の本能であることに気づきます。

ぼくは芸術の根底は伝えることだと思っています。
人は伝えるために芸術をつかいます。芸術はあくまで手段で、伝えることが目的です。
優くんが今日保育園であった楽しかったことも、嫌だったことも、なんでもかんでも伝えようとするのは、ぼくたちに知ってほしいという本能です。

伝えようとする手段が36歳のぼくにとっては写真なんだけど、2歳の優くんにとっては言葉なんだよね。
優くんが一生懸命しゃべる言葉は、ドーナツなのかトーマスなのかわからないこともあるけど、ぼくにとってはすべて芸術です。
いままでいろんな勉強をしてきたけど、いまのぼくの一番の先生は優くんです。
気づかなかったことを2歳児の目線で教えてくれます。

園庭で友達と楽しそうに走りまわる優くんを見ていると、みんな反時計回りで走りまわっているから、みんな右足が利き足なんだなぁって思いつつ、あぁこうやってお友達と遊んで、親の知らないところで成長をしているんだと感じます。

親が子どもに知らないことを教えて、親は子どもから気づかせてもらって、親も子どもお互い離れたところで経験をして、それを伝えあう。
結局、家庭教育ってこういうことでいいんだなぁって思います。
もちろんこれも優くんから気づかせてもらったことです。

今日も夕方に優くんのお迎えに行きます、今日はなにを伝えてくれるのか、いまから楽しみです。

また書きます。

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幡野広志

はたの・ひろし

1983年生まれ。
写真家・猟師。妻と子(2歳)との3人暮らし。2018年1月、多発性骨髄腫という原因不明の血液の癌(ステージ3)が判明。10万人に5人の割合で発症する珍しい癌で、40歳未満での発症は非常に稀。現代の医療で治すことはできず、余命は3年と診断されている。 https://note.mu/hatanohiroshi