PICKUP育児エッセイ

週7の習い事から突然の解放。母から学んだ「多くを求めず任せる」大切さ

みる兄さん取材写真

子育てには正解はない、とよく言います。子供とどのように接すれば良いのか、どのような関係を築いていけば良いのか、迷ったり不安になったりするママ・パパは多いのではないでしょうか。

他の家庭の親子関係を知る機会は少なく、家族のこと、育児のことはどうしても自分自身の経験が中心になってしまうと思います。

そこでninaruポッケでは、「私のお母さん」をテーマに様々な方にインタビューする企画をスタート。

第2回目は、ビューティー系の企業にてSNSマーケティングを担当する2児の父、みる兄さんです。教育ママだったお母さんに、突然「自分の好きにしていいよ」と自由に任せてもらった経験が、みる兄さんの価値観形成に大きく関係しているそう。

みる兄さんとお母さんとのお話から、我が子に対しても一人の人間として対等に接することの大切さが見えてきました。

【プロフィール】

みる兄さん

みる兄さん

8歳の息子と4歳の娘をもつ2児の父。普段はビューティー系企業にてSNSマーケティングを担当。Twitterの匿名アカウント(@milnii_san)ではマーケティングに関するツイートをし、フォロワーは1万人を超える。

母とは昔からずっとフラットな関係

ー本日は、お母さんのお話を伺いたいと思います。今、お母さんとはどのような関係なのでしょうか?

今は、実家から車で30分くらいのところに住んでいます。両親が僕の家に寄ったり、僕が子供を連れて向こうの家に行ったりするから、最低月に1回は今でも会っていますね(編集部注:インタビューは2020年3月初旬に実施)。

比較的気兼ねなくというか、父と母は「あーなんか困ってんならすぐ行くよ。なんなら、2・3日どころかもっとうちにくれば?なんなら子供達泊まらせたら?」みたいにグイグイくる感じ。

僕は「いやそれは大丈夫です(笑)」みたいな感じなんですけど。

お互いの物理的な距離の近さもあるけど、実際に関係はいい感じです。

いろいろと協力もしてもらって助かっていますね。

ーとても仲が良いんですね。

うーん、僕と両親はそんなにウェットな関係ではなくて、なんというか、適度な距離感と言いますか。

嫌悪感はないけど、子供ができるまでは、年に1、2回会うくらいの感じでしたね。

ー なるほど、ではお母さんに何か大きなプレゼントをすることはあまりないですか?

そうですね、あまり大きいプレゼントはしてないですけど、自立して仕事をしてからは、母の日には毎年カーネーションを贈っています。

意味があるかどうかということはお互いあまり考えず、愚直に続けているって感じです。

ー お母さんはどういう反応をされるんですか?

いやもうめっちゃフラット。LINEで「きたよ」って返事が来ます。

ー とてもあっさりな反応ですね。

うん、でもそんな日常をなんとなく続けることの方が意外と大事で、忘れちゃいけないなと思います。

「適温でずっと続けている」プレゼントだし、そういう親子関係だとも言えますね。

子供ができるまでは母とあまり連絡も取らなかったんです。

でも疎遠というわけではなくて、何かあったらすぐになんとかできるフラットな距離感だし、困ったときもあまり気兼ねなくお願いできるし、親も頼み事されたときになんかもったいぶる感じでもなく「じゃあ何時にいけばいい?」という状況が、ずーっと続いているという感じですね。

週7の習い事から突然の解放。
多くを求めず「自由に任せる」関係へ

みる兄さん差し替え

ー お母さんとは、幼い頃からずっと今のような関係なのでしょうか?

いや、中学生の頃からですね。

幼稚園・小学校時代、母は「教育ママ」だったんですよね。習い事は週7日。

平日は習字・そろばん・水泳・ピアノ・英会話。土日は野球。それをずっとやっていました。

その後、母が「中学受験をした方がいい」と言うので、これらをほぼ辞めずに夕方から中学受験用の塾にも行かされました。

別に反抗するわけでもないし、かといって何かに打ち込むわけでもなく、普通に淡々と日常をこなしていた感じですね。だから特に何かを吸収していたわけでもなかったし、中学受験も落ちて、挫折したんです。

でも挫折したときの気持ちも「まあそうかな」「言わんこっちゃない」くらいの気持ちで(笑)。

ー 親にやらされていると、そうなってしまいますよね。

それで受験に落ちて公立の中学校に行くとなった時に、初めて親から「習い事はどれを続けたい?」と選択肢を与えられたんです。

ー 突然ですね。

これまでは「これを始めるから、行きなさい」と拒否権はなかったのに、初めて「好きなものを選んで良いよ」と言われて。

ー なんと答えたのですか?

僕は「全部やめたい」と答えたんですよ。

ー え!?

母はちょっと放心していましたね(笑)。

今、親の立場になって思うと、なんてひどいことを言ったんだと思うんですけど…。

ー 初めて自分の意思を伝えたんですね。

そうですね。

母としては、いろいろな環境・世界を見せることが親の責務であり、可能性を広げるためには、自主性がない中で「あれも触ってみて、これもどうかな?」っていろいろなメニューを提供したのに。

「好きなものを選んで」と選択肢を与えてたつもりが、全部やめるという(笑)。

ー 実は自由な選択を奪っていたと、お母さんは気づいてしまったのですね。

まあそうですね。それで実際に全部やめたんですよ。

でも母はかなりポジティブなので、ショックというよりは「そっか、そうだよね」「じゃあ自由にやれば?」みたいな。

「何かあったら助けるよ」というスタンスになって、それにはちょっと拍子抜けしました。

そこから母は「どうぞ自由に、私は私」という感じでパートに出たり、趣味の写真を極めて賞(二科展)を受賞するくらいになって、完全に自分の人生に振り切ったんですよね。

子供に対してあれやこれやと手を掛けたのは、幼稚園から小学校の10年弱くらい。

そこで一区切りして、中学からはお互いに好きにやるという関係になりました。

ー それは珍しいですね。時間もお金もかけていたら、すぐに割り切れないママが多いと思います。

普通は「もったいない」と思うじゃないですか。でも結構スパッとしていましたね。

たぶん、うちの親はあっけらかんとした性格なので、「あ、この方法は違うんだ」というのがその場で分かったのだと思います。

子供との関係って普通は割り切れないから「もっとこうしてほしい」とか「なぜ分かってくれないの?」ってなるはずだけど、母の場合は「割り切り」がちゃんとできていたから、ずっとフラットな関係でいられるのかなとは思いますよね。

ー 中学以降も、口出しなどしてくることは全くなかったのですか?

中学での一件からは、選択させるというか「任せるけど、なんかあったらちゃんとお金は出すよ」という感じでした。

本当に「こうした方がいい」とはマジで言わない親でしたね。大学受験も就活も全く干渉してきませんでした。

小学校までは全てを提供して「こうしなさい」「受験しなさい」というパッケージのストーリー。中学でスパッと割り切ってからは「自主性に任せるけどお金は出す」というスタンスですかね。

それにはすごく当たり前のように甘えてきたけれど、あとでいろいろな話を聞くと、大変恵まれていて、全力で投資をされてきたんだなという思いはあります。

ー 全く口出ししないって、お母さんはみる兄さんを信じてずっとサポートしてくれていたのですね。

途中途中で、本当は口出しもしたかったと思うけど「はい、任せます」と決めたことをちゃんと守れる人だったなと。

そうすると、中学校の頃はずっと自堕落な生活をしていたけれど、僕も子供ながらに「さすがにこのまま堕落するのはまずい」と思えて。

高校はちゃんと進学校に行こう、大学受験は浪人せずに現役を目指そうって、健全な危機感が出てきました。

今思うとちょっと変わった教育体制なのかもしれないですけどね。両極端だから。

ポジティブになると決めた、母の言葉

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ー 今までにお母さんに言われて嬉しかった言葉はありますか?

ありますね。

中二の時の一斉テストで、化学か何かの最後の問題が選択式で、3つのうちから2つを選んで回答する形式だったんです。

それを早とちりして、僕は3つ全てに回答して全部バツになったんですよ。全部答えは合っていたのに。

当時の僕は「ケアレスミスで努力が水の泡になってしまった」ことにショックを受けていて、「全部できてたのに」と理不尽に感じていたんですよね。

ー 確かに…私もそう思ってしまいますね。

でもそのとき、母に「知識として全部できたんだから問題ないじゃん。」とポジティブな話をされたんですよ。

ー なるほど。

当時は、ある事象に対して「こうしたらもっとうまくいったんじゃないか。」とネガティブに考え込んでしまうタイプでした。

でも母からその話を聞いて、「テストはテスト。全部解けたんだから問題ないじゃん。悩んでいる時間自体が無駄だな。」と思えたんですよね。

どこでもいいからプラスを見つける。

ポジティブな感じに変わったきっかけは、そこだったかもしれないですね。

ー 昔からポジティブだったわけではなくて、考え方を変えたのですね。

そうですね、よくポジティブとは言われるけど、昔からそうだったわけではないです。

母に言われた言葉がきっかけで、「変わる」と決めたということですね。

「ちょっとトラブルがあっても、後々ネタになるからいいかな」「マイナスになっても、ここから右肩上がりのチャンスだな」と、何かしらプラスの要素を見つけると、意外と気持ちは保てるかなと。

子供を個人として尊重することを徹底したい

みる兄さん取材写真

ー お母さんといい親子関係を築いていると思うのですが、反面教師にしていることはありますか?

反面教師としてなのか、逆に振り切っているのか、今は正解は出ないけど、息子の習い事に関しては「全部を決めない」ことは徹底してますかね(笑)。

妻はどちらかというと昔の母のように全部やらせたいんだけど、僕は逐一「いつでもやめていいぞ」「やめたければすぐ相談しろ」と息子に伝えています。

子供が選択するものに関しては、それを支援するし、尊重しています。

ー 子どもを個人として尊重すると。でもそれって、とても難しくないですか?

難しいですよ、子供の決めたことに寄り添うということは、簡単なものじゃないですよね。

でも僕の場合は、あんなに求めていた親が突然「好きにどうぞ」となった経験があったので。

母に「求め続けられていた状況」が悪かったというわけではないけど、気持ちの中ではストレスを感じていました。自分の小学校時代のようにあんまり言いすぎると「もう無理」となって弾けてしまう。

僕は、途中から母が求めなくなった割にはちゃんと育った方だと思っているので、あまりガミガミ言わなくても、親が自分の事をきちっとやっていれば子供はそこそこちゃんと育つ。

だから「任せる」という感じ。

ー 最初から、囲い込まないと。

あんまり囲い込みはしない方がいいのかなと思いますね。

けど、囲い込みをしていたからこそ、いざ、たかが外れた・解放された時に自主性が育つのかなとも思ったりしています。

一回徹底して詰め込みをして、ポンと解放するっていうね。最初から奔放に育てるのは、どうなのかなという思いも…正解は分からないですけど。

僕、小学校の時は本当に遊ばなかったんですよね。遊んだりゲームしたりする子が羨ましいというレベルで囲い込み教育を受けていたんですよ。大人になった今より当時の方が忙しかったです。

だから今、逆に子供には「ガンガン遊んで〜」というスタンスでいます。

自分の子供への恩送りこそ最高の親孝行

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ー では最後に、みる兄さんは今後どのような親孝行をしていきたいですか?

僕は「親に直接返そう」とあまり思っていないんです。

「受けた恩をそのままきちんと子供に受け継ぐ」ことが、意外と本当の親孝行というのではないかと思っているんですよね。

下の世代に残す、受け継いでいくことが大切。

ー 恩返しではなく、恩送りの考え方ですね。

うん、親子だけでなく、会社の組織としてこれを学んだのが大きいですよね。

先輩が後輩に何かしてあげた時に、「ありがとうございます、出世払いで」なんていうと「出世払いは上司に返すんじゃなくて、出世した後の部下にそのまま持っていけ」というね。

会社でメンバーに対してもそんな感じです。「なんでそうなんですか」と聞かれたら、「そうされてきたからだよ」と返します。

ー なるほど。

親孝行もそういう感覚です。

旅行とか何かプレゼントをあげることも、それはそれで親孝行としては良いと思います。

でも、親から受けてきたバトンの意味を客観的にみることができたのであれば、それを同じかそれ以上に、自身の子供につないで支援し、人生を楽しむきっかけを与えたい。

そうすると、孫と祖父母にもとてもいい関係が作れる。まだまだ先は長いけど、親に受けた恩を「子供の成長」で返していくことが一番大事だと思っています。

一方で、親との関係が悪いのならば、それを糧にして子供に「そうではなく」接するのもひとつの方法で、いろんなパターンがあると思います。

自分がおじいちゃんになった時も、子供から「何か親孝行をしたい」と言われたら、「そんなお金があったら自分の子供に使いなさい」と言えるのが、いい関係かなと思いますね。

フラットな関係とは、
相手を個人として尊重すること

今回のインタビューでは、みる兄さんがお母さんとの関係を「フラット」と表現していたのが印象的でした。親に干渉された経験、そして急に解放された経験。両方を経験しているみる兄さんのお話から、子供を個人として尊重することの大切さを改めて感じました。

親はどうしても子供に口出ししてしまいたくなるものですが、子供を信じて任せることで、お互いに尊敬しあえる良好な関係を築けるのではないでしょうか。

みる兄さん、ありがとうございました!


▼インタビュー第一弾はこちら
大切なことは全て母が教えてくれたー5歳さんが尊敬するお母さんの話

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(インタビュー/撮影:澤山大輔)


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作者

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石川 瑛子

石川 瑛子

いしかわ ようこ

「こそだてハック」「ninaru baby」編集者2年目。大学時代はノルウェーに留学し、北欧の教育や子育て政策、ジェンダーについて研究していました。趣味は写真を撮ること。旅行先には欠かさず一眼レフを持っていきます。
https://eversense.co.jp/member/ishikawa-yoko