ハズレてるのにうれしそう
妻が年末ジャンボ宝くじを買っていた。ぼくは「そんなの当たらないよ」とはいわない。どちらかといえば「きっと当たるよ」と声をかけるタイプだ。
宝くじは当選を夢見てたのしんだり、当選番号の発表にドキドキするエンタメなのだろう。
本人がたのしんでるのに水を差すのも無粋だ。それに万が一、数千万分の一で7億円が当たったときに「そんなの当たらないよ」といったことがきっとアダになりそうだ。
そもそも妻は高額当選することを微塵も夢見ていないようで、目標金額は3000円だそうだ。ちなみに購入した宝くじは1万円分ぐらいなので、目標の時点で元本割れしてるのマジでどうかしてる。
妻に3000円が当たったらなにをするのか聞いてみると、友達とスタバにいってごちそうをしたいそうだ。微笑ましい夢だ。3000円が当たったことで盛り上がりながら、普段なら注文しないスタバの新作をたのしみたいのだ。
3000円程度の当選金額なら誰かに妬まれるわけでも、たかられるわけでもなく、当選する確率も比較的高い。それでいて当選金額のつかい道にも現実味がある。
あんがい3000円の目標設定は絶妙にいいんじゃないだろうか。妻の話を聞いてそう考えるようになった。
1万円あれば3000円の夢を3回叶えてもお釣りがくるけど、そういうことではなく宝くじをたのしみたいのだろう。
当選番号が発表されて妻が宝くじを確認しながら「あー、おしい!あーーこれも!」とハズレているのになんだかうれしそうだ。
「あ、当たったよ」と一枚の宝くじを見せてくれた。1万円が当たっていた。おおお、すげえ。
1万円が当選する確率は1000分の1だそうだ。300円は10分の1で当選するのだから、1万円の当選は300円の100倍ぐらいのテンションでよろこんでいいものなのに、300円の当選とほぼおなじテンションだ。
ぼくは弥生土器でお米を炊いてみたい
きみってお金にあんまり興味ないよね。結婚して10年、ぼくはきみから、もっと稼げだとか、くだらないものを買うなだとか、お金のことを何かいわれたことは一度もありません。
もしも日常的にきみから『またくだらないもの買って…』といわれていたら、宝くじを買ったきみに対して『きみだってくだらないもの買ってるじゃん』ってぼくもいっちゃうかもしれません。
ぼくの買ってるものは、誰かからしたらくだらないものばかりです。ぼくがいまほしいものは弥生土器ですよ。弥生土器でお米を炊いてみたい。きっと美味しいと思います。
人はそれぞれ価値を感じるものが違うわけです。相手の価値観をバカにすれば対立がはじまって、相手の価値観を否定して自分の価値観に染めようとすれば宗教戦争のように争いがはじまります。
ぼくは相手の価値観を尊重してくれる人と結婚してほんとによかったと思ってます。ぼくだけじゃなく、優くんに対しても『くだらないもの買って…』っていわないよね。
優くんがお年玉で買うものだって、興味のない大人からすれば、ほとんどがくだらないものですよ。でも優くんからすれば宝物なわけです。
自分が宝物だと思うものを、誰かからくだらないっていわれちゃうのは大人でも悲しいわけで、もしもそれを親からいわれたら子どもはショックだと思うんです。
ぼくだったら自分の宝物がなにか隠すようになるだろうな。そして親がよろこびそうな物をニセの宝物にしちゃう気がする。もしくは自分の宝物がわからなくなってしまうかもね。
お金に興味がない。それは良くも悪くもなんだけど、総合的に見たらきみの長所だとおもっています。
また書きます。
幡野広志
はたの・ひろし
写真家・猟師。妻と子(2歳)との3人暮らし。2018年1月、多発性骨髄腫という原因不明の血液の癌(ステージ3)が判明。10万人に5人の割合で発症する珍しい癌で、40歳未満での発症は非常に稀。現代の医療で治すことはできず、余命は3年と診断されている。 https://note.mu/hatanohiroshi