僕は癌になった。妻と子へのラブレター。

ランドセルを背負う姿を見ること|幡野広志「ラブレター」第51回

五月人形か、甲冑か、ボディーアーマーか

コピーライト 幡野広志

うちには五月人形がない。毎年子どもの日が近づいたトイザらスで「あぁ、買わなきゃな」といつも思ってはいる。思ってはいるのだけど、保管場所に困る&出すのもしまうのもめんどくさいという理由で、毎年処分できるような簡易的な飾りで済ませてしまっている。

息子も五月人形に高い関心をしめしていないけど、なんだか息子には申し訳ない気持ちもあるので、五月人形を買えたであろう予算を、息子のほしがるおもちゃやゲームソフトにあてている。ぼくのめんどくさがりと息子のおもちゃを買ってもらえるという利害が一致して、五月人形からどんどん遠のいている。

とはいえ、ぼくが骨董品の甲冑に興味があるので、戦国時代の足軽が使っていたような地味な甲冑や兜を買おうか買わないか毎年この時期に迷いつつも、妻に気味悪がられ見送っている。そもそも現代的には甲冑や兜じゃなくて防弾チョッキとヘルメットじゃね?と軍用のボディーアーマーとヘルメットを買おうか悩むも、配色が地味なため飾りとしてはいささか不向きだ。

五月人形も、足軽の地味な甲冑も、軍用のボディーアーマーもだいたい価格帯が近いので毎年頭を悩ませている。結局今年も購入を先送りして、ダンボール製の組み立て式甲冑を購入した。組み立てると子どもが着用できるようだけど、息子にはまだちょっと大きかったみたいだ。

休日の朝、妻と息子が争うような声が聞こえた。まるで戦のようだ。なんだろうと確認するとダンボールの甲冑をきた妻とパジャマの息子が戦っていた。明らかに息子が不利な戦いなんだけど、今年はこれでよかったな。来年はどうしよう。

人の子の成長は早いっていうけど

コピーライト 幡野広志
今年の子どもの日はダンボール甲冑だったけど、来年はどうしましょうね。登録証を取得して日本刀をコレクションするのもありかなって思ったけど、そもそも五月人形って子どもの身代わりとして厄を引き受けてくれるものだそうなので、日本刀じゃ本来の意味とはちょっと違うし、なんなら足軽の甲冑も軍用ボディーアーマーも違うんだよね。

身代わりだとか厄だとかってのは、ぼくは全然信じてないんだけど、薬が存在しないような大昔は現代よりも子どもが命を落としやすかったから、そうならないように子どもの成長を願うもので、信じるほか手段がなかったんだろうね。

本当に身代わりの効果があるなら、子を育てる親にだって身代わりがほしいのだけど、売ってるほうも買ってるほうも、本気で五月人形に子どもの身代わり効果があることを信じていたわけじゃなかったんだろうね。だからこそ、現代的には五月人形じゃなくても、足軽の甲冑や軍用ボディーアーマーや日本刀でもいいと思ってしまうのがぼくの悪いクセで、また来年悩んでしまうのだと思います。

来年の子どもの日、優くんはもう小学生になってますね。信じられんよ。人の子の成長は早いっていうけど、自分の子だって成長は早いわ。ぼくは優くんがランドセルを背負う姿を見ることはできないだろうと思っていたから、キミと優くんと一緒にランドセルを探したとき、ぼくとしてはかなり感慨深いものがありました。

ぼくとしてはランドセルこそ子どもの成長を祝い、子どもの無病息災を願うものだと感じました。だからなおさら五月人形じゃなくて、足軽の甲冑をですね…。

また書きます。

コピーライト 幡野広志
「お父さん頑張ったね」|幡野広志「ラブレター」第50回

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優くんはどんな成長をするのだろう|幡野広志「ラブレター」第27回

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幡野広志

幡野広志

はたの・ひろし

1983年生まれ。
写真家・猟師。妻と子(2歳)との3人暮らし。2018年1月、多発性骨髄腫という原因不明の血液の癌(ステージ3)が判明。10万人に5人の割合で発症する珍しい癌で、40歳未満での発症は非常に稀。現代の医療で治すことはできず、余命は3年と診断されている。 https://note.mu/hatanohiroshi