Nintendoさんありがとう
息子がまだ乳児の頃、よくペットボトルを手に持ってキャップの部分を噛んでいた。ポロッと外れて誤飲されても困るので「ダメ!!」と注意するが、なんせ相手は地球にきてまだ一年もたっていない頃だ。地球のルールや危険をまだ理解していないので、止めてはくれない。
息子からすればペットボトルのキャップを何かしらの理由で噛みたいのだろう。だったら息子が噛みたくないように仕向ければいい。乳児向けの商品で苦味成分のはいったスプレーがある。それをふきかけておけば苦くて口にいれないというものだ。
ペットボトルのキャップにふきかけて、まずはぼくが口にいれてみる。苦くてグェッとはきだす。はきだした後に口直しの麦茶を飲みながら、これはいけると確信したのか妙におかしくなって一人で笑っていた。
苦いキャップのついたペットボトルをあえて息子の手の届くところに置いておく。トラップにかかった息子がグェッとはきだした。驚いている。そりゃそうだ。大丈夫かい??と抱っこしてお口直しの麦茶をわたす。たったそれだけで息子はペットボトルのキャップを二度と噛まなくなった。
ぼくも子どもの頃にピーマンが苦手で、無理やり食べさせられてグェッっとなったことがある。大人になったいまでもピーマンは苦手だ。わざわざ噛もうとはしていない。そういうものだ。
口にいれたら危ない小さいものスプレーをたくさんした。トラップにかかった息子がグェッとはきだす。抱っこしてお口直しの麦茶をわたす。
息子は親から止められるのではなく、グェッっとなりたくないから、自主的にモノを口にいれることを止めた。お父さんとしては息子の誤飲の可能性を低減できて、抱っこと麦茶をあげることでお父さんの信用まで築くことができる。完全なるマッチポンプだ。
つい最近、息子がNintendo Switchのソフトを交換しているとき「おとうさん、このソフトって苦いんだって」と教えてくれた。どうやらSwitchのソフトも子どもの誤飲を防ぐために、とても苦い作りにしているそうだ。
「ちょっとためにし舐めてみてよ」と息子にいうと「苦いからやだよー!」と断られる。苦いものは危険という認識ができているようだ。
じゃあお父さんがちょっと舐めてみるよと、ペロっとすこし舐めてみた。これが強烈に苦くて、グエェッっとなる。Nintendoさんありがとう、これなら安心です。
だいたいのことは繋がってるものです
スタイリッシュでかっこいいお父さんと息子が二人でドライブして、息子もかっこいい大人に憧れる……みたいな構成の自動車CMってよくあるけど、現実的にはお母さんのいないところで、アホな先輩男子と後輩男子が2人でふざけてる……みたいな感じなんですよ。
ぼくもスタイリッシュでかっこいいお父さんには憧れるけど、なかなか上手くいかないものです。Switchのソフトの苦さは強烈でした。わかりにくいかもしれないけど、熊の胆のうを乾燥させた熊胆の苦味と似ています。
ぼくがグエェッなってるときに、優くんが麦茶をもってきてくれたんだけど、ああ、優くんが乳児のときと立場が逆になったなと思いました。そしてこういうときにサッと麦茶を持ってこれるのも成長だよね。そのとき苦いスプレーのネタバラシをしたんです。優くんは覚えていなかったけど、お父さんみたいにグェッっとしてた話をきいて笑ってました。
親って子どもより先に地球にきた先輩なんですよね。親ってだけで別に偉いわけでもなんでもないです。じゃあ親はまったく褒められなくてもいいかといえばそうではなくて、大人も子どもも誰だってがんばったことやはじめてできたことは褒めてほしいものです。
ぼくは写真家だけど、たいていの人は心のどこかで褒められたくて写真をやってます。褒められると成長もします。ぼくも人に写真を教えることがあるけど、子育てからヒントを得て、褒めてのばしてるつもりです。仕事からヒントを得たことも子育てに流用できるし、だいたいのことは繋がってるものです。あとはもうちょっとスタイリッシュでかっこいいお父さんを目指します。
じゃあまた書きます。
この連載が本になりました。
この連載の第1回から第48回までをまとめた一冊「ラブレター」が発売中です。
幡野広志
はたの・ひろし
写真家・猟師。妻と子(2歳)との3人暮らし。2018年1月、多発性骨髄腫という原因不明の血液の癌(ステージ3)が判明。10万人に5人の割合で発症する珍しい癌で、40歳未満での発症は非常に稀。現代の医療で治すことはできず、余命は3年と診断されている。 https://note.mu/hatanohiroshi