幡野広志 連載バナー

【幡野広志 連載第2回 僕は癌になった】おめでとうが、何よりうれしい。


もしあなたが今、余命3年と宣告されたら。残された時間の中で、何を思い、何を考え、どんな行動を起こしたいと思うだろうか。それがもし、愛する伴侶と、子どもを残して死を迎えることがわかったとしたらー?
余命3年の末期癌と宣告された写真家、幡野広志さん。この連載は、1歳の息子と妻をもつ34歳の一人の写真家による妻へのラブレターである。

初回のコラムの反響が大きく、たくさんの方から温かいメッセージを頂戴しました。自分の文章力に自信が持てていなかったので、ホッと一安心。

皆様のメッセージに心が癒され寿命が延びました。ありがとうございます。これからも天狗にならず寿命を全うしたいと思っています。

尊敬できる友人が「30年くらい連載希望。」というコメントと一緒にシェアしてくれてるのをSNSで見かけました。僕が少しでも長く家族と過ごせることを願いつつ、記事自体も褒めてくれているような洒落た投稿が嬉しかった。

でも残念ながら僕が30年も由香里と優を見続けることは不可能だ。

健康なときには気づかなかった価値観。

連載 コピーライト 幡野広志

日本人男性の平均寿命は約80歳、大多数の人が30年は家族を見続けることが出来ている。

家族を30年見続けることが出来るのはとても幸せなことで、少しうらやましく思う。誕生日や卒業式や結婚式など、子どもの成長の節目で親が泣く理由は、家族を見続けるという幸せを享受できたからこそだと感じる。

僕の平均余命は3年。短いかわりに濃密な時間を家族と過ごしたい。

大人になると一年が短く感じるけど、子どもの頃の一年は長かった。僕と由香里にとっての3年はあっという間かもしれないけど、今1歳の優にとっての3年はきっと長い。

家族と思い出をたくさん残したい。そして由香里と優には、思い出話で思い出し笑いをするような幸せな人生を歩んで欲しい。

思い出も立派な財産だ。健康なときには気づかなかった価値観に気づく日々に僕は幸せを感じる。

誕生日に欲しいもの。

連載 コピーライト 幡野広志

もう少しで僕の誕生日だね、この手紙が公開されて恥ずかしさに悶えている頃には35歳になっている。

誕生日プレゼントに何が欲しいか君に聞かれたけれど、病気になったことの申し訳なさを感じているのでプレゼントは遠慮したいと言った。

でも遠慮をすると君を悩ませたり、もしかしたら不安にさせたり悲しませてしまうかもしれないから、やっぱり遠慮なく貰うことにしよう。

写真を撮るのに便利だから斜めがけのバックを愛用してたけれど、体の片側に負荷のかかることが辛くなってきたのでリュックが欲しい。僕はあと数年しか使えないと思うけど、優くんが大きくなっても使えるようにしたいと思う。

だから流行に偏ったものでなくシンプルデザインで、なおかつ丈夫で優くんも使いたくなるようなリュックがいい。この条件にピッタリ合うものを見つけたけれど、ちょっとお値段がお高いんです。

遠慮したいと言ってから1分で方向が180度変わってしまった。ごめんよ。

僕の苦労話はしないでね。

連載 コピーライト 幡野広志

僕はいつもそうだったよね。決断は早いけど決断したことをすぐに修正というレベルを超えて方向転換する。そんな僕に君は苦労したこともあると思うけど、ガンになっても変わらないからきっと死んでも変わらない。

僕のリュックを成長した優くんに渡すときに、この手紙のことを話してあげて欲しい。きっと優くんも僕がどんな人間だったかを知りたいはずだから。

ただし絶対に苦労話にしないでね、これは約束して欲しい。思春期の子どもにとって親の苦労話ほどつまらないものはない。

僕は35歳になっても親の苦労話と、他人の昔悪かった自慢話と、君の昨晩見た夢の話だけは、聞いていて寿命の無駄だと感じるよ。

だから僕のことを優くんに話すときは、なるべく聞いていて面白い話にしてあげてください。君の言いたいことを話すのではなくて、優くんの聞きたいことを話してあげてください。

「おめでとう」が、なにより嬉しい

連載 コピーライト 幡野広志

僕の誕生日を迎えるときに君は何を想うのか、僕はちょっと心配です。

「来年もおめでとうって言えるかな? いつまでおめでとうって言えるかな?」ということを考えていませんか?

祝いたい気持ちと不安が混じった君からの「おめでとう。」という言葉が僕は嬉しくて、なによりのプレゼントです。少し複雑な「おめでとう。」が、僕たち家族の濃密な時間を表しているのだと思う。

いつか来るであろう僕の命日よりも、僕の誕生日を覚えていて欲しい。死んだ日の悲しい思い出なんて頭の片隅にしまっておけばいいよ。

命日に線香に火をつけて涙を流すよりも、誕生日にローソクに火をつけて笑ってくれる方が僕は嬉しい。

今年も誕生日祝ってくれてありがとう、来年も祝ってほしい。6月には君と優くんの誕生日があるね、楽しみにしていてね。

また書きます。


幡野広志

幡野広志

はたの・ひろし


1983年生まれ。
写真家・猟師。妻と子(1歳8ヶ月)との3人暮らし。2018年1月、多発性骨髄腫という原因不明の血液の癌(ステージ3)が判明。10万人に5人の割合で発症する珍しい癌で、40歳未満での発症は非常に稀。現代の医療で治すことはできず、余命は3年と診断されている。
https://note.mu/hatanohiroshi

【幡野広志 連載第10回 僕は癌になった】いまならいえる秘密です

【幡野広志 連載第10回 僕は癌になった】いまならいえる秘密です


【幡野広志 連載第3回 僕は癌になった】優しい涙。

【幡野広志 連載第3回 僕は癌になった】優しい涙。


【幡野広志 連載第1回 僕は癌になった】3人で、いただきますをしよう。

【幡野広志 連載第1回 僕は癌になった】3人で、いただきますをしよう。