【連載第32回 うんでも、うまずとも。】心拍停止、6回目の流産


妊娠はするものの流産や死産を繰り返す「不育症」。原因が分かれば治療法が分かる場合もあるが、検査するもまったく異常なし。そして現在まで、いつか奇跡的に出産までたどり着けることを信じて、ただひたすら子づくりに励む日々が続く。そんななかで見つけた、養子縁組という、もうひとつの“母になる方法”。そんな43歳の編集者&バンドマンによる不妊治療と養子縁組の泣き笑い日記。連載32回、6回目の流産と、手術。

妊娠に安心なんてない

吉田けい うんでも、うまずとも。

“心拍が確認されたら、ひとまず安心”

ようやく「妊娠できた」と喜ぶことができ、世界中に妊娠報告をしたい気分になっていたが、気がかりだったのは、やはり養子縁組の民間団体Fのこと。

妊娠している状態で養子を受け入れることはできないため、不妊治療を続ける間は、Fからの養子の受け入れをストップすることになっていた。

そして、心拍が確認され、いよいよ妊娠が確定したことで、再度Fに連絡して、どうやらさらに1年ほど受け入れできなくなりそうだと伝えた。

「今この瞬間にも、うちの子になる(かもしれない)赤ちゃんが生まれている(かもしれない)のに、受け入れをストップするなんて」と、またこんがらがった喪失感と焦燥感に襲われたけれど、しかたない。

お腹でピコピコ動いてる命を、何よりも優先しなきゃ。

毎朝8時にバイアスピリンと、産婦人科医推奨ナンバーワンとやらのサプリメントを飲み、いつも以上にタンパク質をとるようにして、打ち合わせや取材で外出する以外は、なるべく家で安静に過ごすようにした。

熱っぽくて、体がだるくて、胸焼けがする。

何度目かの妊娠の自覚症状っぽいものがうれしい。

そして心拍確認から2週間後、第9週の検診のため、西新宿Kクリニックにやってきた。

多くの人は、この段階で異常がなければ、体外受精専門のKクリニックを“卒業”し、一般の産婦人科に転院する。

ようやく……、ようやく卒業できるかも。

内診室の台に上がり、モニターを見つめる。

ピコピコは大きくなってるだろか……。

真っ黒の画面に映る白いモヤモヤの中、丸い胎嚢が見える。その中に小さな塊。本当に小さな……。

あんまり大きくなっていなかった。

小さな塊は動いてなかった。

いくら目を凝らしても、ピコピコは見えなかった。

まただ。またダメだった。また流産しちゃった。

堕胎手術と呼ばないで

それからの私は、無で空で虚だった。

なんのために生きてるんだっけ。

ピコピコと動いていた命を失って、すべてを失ったようだった。

第10週の検診で、流産が確定。

Kクリニックの近くのクリニックで流産手術を受けることになった。

当然ながら、そこでも内診を受け、動いていない小さな塊と再び対面し、本当に、間違いなく、流産していることを再確認した。

なによりショックだったのは、診察のあとに受け取った手術の説明書に「堕胎手術」の文字を見たこと。

医師にとっては、流産だろうが堕胎だろうが、手術でやることは同じなのかもしれない。

でも、こちらにとっては大きく違うんだぞ!!!

もしかしたら、このクリニックは流産よりも堕胎のために手術を受ける人が多いのかもしれない。

そう思うと、待合室に漂う鬱々とした空気や、スタッフのドライで機械的な対応にも合点がいった。

ここに居たくない。

手術後は、術後の経過を見るため、期間をおいて2度の検診を受ける必要があったが、2度目の検診は行かなかった。

……それが2018年9月のこと。

この連載が始まったときのことでした。

執筆を決心したのは胎嚢が見えたぐらいの頃で、今まで何度も流産を繰り返し、養子縁組も目指して、つらいことがいろいろあったけど無事に出産できました、チャンチャン……っていう流れを予想してました。

でも、現実はそんな簡単じゃなかった。

命を産むのは、本当に本当にホントーーーに難しい。

この連載を読んでくださっているお母さんたちは、すごいです。我が子を腕に抱けることは、奇跡です。

私も、うんでも、うまずとも、いつかは誰かの母になりたい。

連載は、もうすこし続きます。

なかなか母にはなれませんが、とにかくまだまだいろんなことが起こります。

どれもこれも、誰にでも起こり得る、取り立てて特別でもないことですが。

私のつまらぬ経験や感情の記録が、なんかの役に立つといいなぁ……。

続きは第33回にて。

写真のこと:小学1年生の時に遭遇した事故がトラウマになって、ずっと海には近づかなかった。夫に懇願されて34歳でスキューバダイビングの免許をとり、しぶしぶ潜ってから、やっと海もいいもんだと思えるようになった。徳島の藍染工房からの海。青い世界。


【連載第33回 うんでも、うまずとも。】10回目の採卵、いかに

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【連載第31回 うんでも、うまずとも。】妊娠への期待と流産の恐怖

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吉田けい

吉田けい

よしだ・けい

1976年生まれ。編集者・バンドマン。2010年、6歳下の夫と婚前同棲をスタートして早々に、初めての妊娠&流産を経験。翌年に入籍するも、やっとの妊娠がすべて流産という結果に終わる。その後、自然妊娠に限界を感じ、40歳になる2016年に体外受精を開始。2018年11月、構成・編集を手がけた書籍『LGBTと家族のコトバ』(双葉社)を出版。