2017年末に余命3年の末期癌と宣告された写真家の幡野広志さん。この連載は、4歳の息子と妻をもつ37歳の一人の写真家による、妻へのラブレター。
親バカというのは、危険だ。
親バカっぽいけど息子はとてもいい子だ。具体的にどんなところがいい子かというと、天ぷらをつくれば「おとうさんの天ぷらさいこうだよ!」といってくれる。
ぼくはEスポーツが下手なんだけど、息子と一緒にマリオをしててこりゃ4回は命を落としそうだなってステージにくると「だいじょうぶだよ、しっぱいしたっていいんだよ、おとうさんならできるよ!」と励ましてくれる。
具体例はまだまだあっていいたいのだけど、とにかく息子はいい子だ。まだ4歳なのでいい子なんていっちゃうけど、つまりいい人なのだ。
ぼくがいままでに出会った人のなかでトップクラスにいい人だ。もちろんこれはぼくと息子の関係性においてのことだけかもしれない。
ぼくはお父さんの立場としてしか息子を知ることができない。息子と友達になることも、恋人になることもできないし、独占することなんてことも絶対にできない。
ぼくが息子をいい人だとおもうのは、ぼくにたいしていいことをしてくれるからだ。さすがに息子だって嫌いな人と、好きな人とおなじ対応はしないだろう。
ぼくだってそうだ。人の評価というのは関係性によって変わる、だから親バカというのは視野が狭くなり過大評価をしがちなので危険だ。
ぼくはその場にいたわけでなく妻から聞いた話なんだけど、息子がすこし年上のお友達にいじめられた。
殴られたとか蹴られたというわけでなく、いじめというよりはまだ嫌がらせというレベルだ。お友達もいじめの認識はないだろうけど、確実にお友達は快感と充実感をえたはずだ。
息子は悔しくて泣いて抗議をしたが、お友達はわらっていたそうだ。きっと息子はさらに悔しいおもいをしただろう。そのお友達にはお兄ちゃんがいて、お兄ちゃんから似たようないじめを受けている。
お友達が息子に嫌がらせして快感をえるのは支配欲がみたされたからだ。お兄ちゃんから受けている支配のストレス解消にもなる。自分が年長者からやられているのだから、自分も年少者にやってもいいという勘違いすらあるだろう。
いじめや嫌がらせというのは、加害者にとってメリットだらけなのだ。だからいじめは絶対になくならないし、特定の人間がいじめて、特定の人間がいじめられるのだ。
大人気なくいってしまうがぼくはお友達がちょっと嫌いだ。子どものやっていることだけど、大人の世界にもこういうお友達はいっぱいいて、どのコミュニティーでもだいたい嫌われている、当たり前だ。
でもきっとお友達の親からすれば、きっといい子なんだろう。大人が見えていることと、子どもが感じていることは違う。親バカの最大の危険は子どもの加害に気づきにくいことだ、ぼくも気をつけよう。
溺れた犬を棒で叩くような人よりも
波と風がウェーブしないようにボカして書いたけど、キミはどの一件なのかわかっているよね。自分の子どもにまったく非がないのにもかかわらず、嫌がらせされるのは嫌なものだよね。
優くんが泣いて抗議したことを、わらうという加虐性に正直なところゾッとした。溺れた犬を棒で叩く人っているけど、そういう人が戦争にいくと大変なことになるんだろうね。
いじめってどう考えても、いじめる側に問題があります。問題って何かというと日頃抱えているストレスなんだとおもう。
親になると自分の子どもがいじめの被害にあわないか心配をしがちだけど、一対多数といういじめの構造上、自分の子どもがいじめの加害者になる可能性をしっかりと考えることも必要なんだよね。
いじめの加害者にならないようにするには、ストレスを抱えさせないことが大切だとおもう。ぼくはオタクか不良しかいないような底辺高校を卒業してるけど、いま振り返ると不良って家庭環境のストレスを抱えた人がおおかったよ。
大人でも職場でいじめをしちゃう人いるけど、どう考えても人生に満足していない不幸な人がおおいよね。
人間って大人も子どももみたされなくて、ストレスを感じるといじめの加害者になりやすいんだろうね。いじめのターゲットは大人も子どももいつも自分より弱い存在で、いじめることで充実感をえちゃう。
お友達の問題はお兄ちゃんの支配欲によってできたものだとおもってるよ。でもそのお兄ちゃんもストレスを抱えているんだろうね。あのお兄ちゃんは「お兄ちゃんなんだから」って理不尽な理由で行動を制限されすぎだよ。兄弟ゲンカの一因に、親による兄弟格差はきっとあるよね。
もしかしたら親もストレスを抱えているのかもしれないよね、だからといってストレスのしわ寄せがいじめの被害者にいくのは間違いなんだけど、親や大人がストレスを抱えないことがいじめをなくす第一歩なのかもしれないよね。
親のストレスを子どもにぶつけてたら、同級生に暴行と略奪と強要をくりかえすジャイアンを育てているようなものだとおもいます。これはぼくたちも気をつけましょう。
溺れた犬を棒で叩くような人よりも、助けようとする人のほうがいいとおもうんだよね。
また書きます。
幡野広志
はたの・ひろし
写真家・猟師。妻と子(2歳)との3人暮らし。2018年1月、多発性骨髄腫という原因不明の血液の癌(ステージ3)が判明。10万人に5人の割合で発症する珍しい癌で、40歳未満での発症は非常に稀。現代の医療で治すことはできず、余命は3年と診断されている。 https://note.mu/hatanohiroshi