妊娠はするものの流産や死産を繰り返す「不育症」。原因が分かれば治療法が分かる場合もあるが、検査するもまったく異常なし。そして現在まで、いつか奇跡的に出産までたどり着けることを信じて、ただひたすら子づくりに励む日々が続く。そんななかで見つけた、養子縁組という、もうひとつの“母になる方法”。そんな44歳の編集者&バンドマンによる不妊治療と養子縁組の泣き笑い日記。連載44回、”うまずとも”親になる準備に入る。
研修も家庭調査も、もう一度!
2020年5月の移植を最後に、キッパリと不妊治療はやめた。
これで採卵や移植のタイミングを考慮することなく、
いつでも好きなだけライブができるし、出張も行けるし、酒も飲める。
また海外旅行もできるし、留学だってできる。
自由って、最高! ……なんてことはなく、
コロナのせいでライブもできず、出張も行けず、居酒屋で酒も飲めない。
対面での取材はやりづらくなり、仕事は減っていき、雑誌は休刊し、
広告は少なくなり、出版社はグラグラし……って、自由満喫どころじゃない。
それでもなんとかジワジワと、仕事量はコロナ以前に戻りつつあり、
ネット配信などで、音楽活動も再開し始めた。
そんななか、妊娠&不妊治療のためストップしていた養子縁組を
もう一度、目指す準備を進めている。
そう、連載第30回で書いたように、赤ちゃんと養親のマッチングのあとに
妊娠や出産などの理由で、養親として私たちが赤ちゃんを受け入れられないという
事態にならないように、予め「いまは受け入れできません」とストップしていた。
しかし、「受け入れできるようになりました」と報告したところで、
すぐ、赤ちゃんがやってくるのを待つ「待機」状態となるわけではなかった。
養親登録していた民間団体に対して、
私たちが受け入れをストップしてから2年が経っていた。
しかも、私たちが以前受講した研修は特別養子縁組あっせん法施行前のものだったので
再度、研修から受け直す必要があった。家庭調査も実習も、もう一度。
再開したい旨を団体の担当の方に伝えると、上記のような受け直しなどがあるため
「時間も費用もかかりますが」と言われたけれど、私たちに、まったく迷いはない。
もう、“うまずとも”親になるって決めたもの。
おとうさん、応援してね。
私たちが養子縁組をストップしているあいだに、民法が一部改正され、
特別養子縁組の成立要件を緩和するなどの変更によって、制度が利用しやすくなった。
改正のポイントは大きく2つ。
1つめは、
養子となる子どもの年齢の上限が、原則6歳未満から原則15歳未満に引き上げられた。
2つめは、
特別養子縁組同意後、以前はいつでも実親が撤回できたが、一定の場合には撤回できなくなるなど、裁判手続に関わる部分での合理化が進められた。
この改正により、実親と暮らすことのできない子どもたちが、少しでも多く、
養親と親子関係を築き、安心して暮らしていけますように。
そう願ってやまない。
そして、養親にとっては、実親の翻意による撤回が何よりも恐ろしいので
その可能性が低くなったのは、とっても心強い。
よしよし、追い風だ。
世の中は、いい方へ変わりつつある。
でも、私たち夫婦には大きな悲しい変化もあった。
父が仕事中の事故により他界してしまったのだ。
養子縁組を考えていると伝えたとき、すぐ「ええやん!」と賛成してくれた父。
帰省するたびに、お互いの誕生日にメッセージをやりとりするたびに、
「赤ちゃんが来ることを祈ってる」と言ってくれていた父。
ほんとうに言葉のとおり、出雲大社で買ったという縁結びのお守りを神棚に飾って、
私たちのために、ことあるごとに祈ってくれていた父だった。
きっと家族の誰よりも、赤ちゃんを抱っこすることを楽しみにしていただろうに。
抱っこさせてあげられなくてごめんね。
どこかで私たちを見てくれているのなら、引き続き応援していてね。
とはいえ、我が家に赤ちゃんがやってくるのか、そもそも再び養親登録できるか、
それは、まだまだわからない。
続きは第45回にて。いい報告ができるといいなぁ。
写真のこと:気付けば前回から5ヶ月も経っていた。街にはすでに冬の気配。というわけで、ちょっと気が早いですが、冬の花のひとつ、葉牡丹の写真を。「愛を包む」という花言葉があるらしいですよ。ふわふわと柔らかく何重にも包まれた愛……、家族みたいだ。
吉田けい
よしだ けい
1976年生まれ。編集者・バンドマン。2010年、6歳下の夫と婚前同棲をスタートして早々に、初めての妊娠&流産を経験。翌年に入籍するも、やっとの妊娠がすべて流産という結果に終わる。その後、自然妊娠に限界を感じ、40歳になる2016年に体外受精を開始。現在は不妊治療を継続しながら、養子縁組を目指す待機養親としても登録中。2018年11月、構成・編集を手がけた書籍『LGBTと家族のコトバ』(双葉社)を出版。