僕は癌になった。妻と子へのラブレター。

キミに美味しいものを食べてほしいんだよなぁ|幡野広志「ラブレター」第40回

ウーバーでケンタッキーを注文するのは、おみくじだ

コピーライト 幡野広志
幡野家では夜ごはんの決定権を息子が持っている。子どもを甘やかしているといわれれば、まったくもってその通りだ。時代が時代なら徳川家の子どものような厚遇だろう。

息子は好きなものを注文するので、自らごはんをパクパク食べてくれる。ぼくは献立を考える手間から解放もされるし、作ったものを食べてくれないというストレスや「なに食べたい?」「なんでもいいよ」というコール&レスポンスとも無縁だ。なによりも嫌いなものを子どもに食べさせるという苦労がない。

息子は今夜のごはんに牛丼を注文した。牛丼はわりとヘビーローテーションなので、ぼくの牛丼を作るレベルは日々上達している。「おとうさんの牛丼はさいこうだよ!!」と褒めながら、パクパクと食べてくれるのでとても作りがいがある。

お寿司が食べたいといわれれば回転寿司に行き、マックが食べたいといわれればウーバーで注文して、カップラーメンが食べたいといわれればお湯を注ぐだけだ。ジャンクフードや加工食品や外食チェーン店があふれる時代に生まれて、ぼくも息子も本当によかった。

夜ごはんの決定権を息子が持つことで親子の利害が一致するので、親子そろってベロベロに甘えている。子育ては楽をすれば楽をするほど、正比例して楽になる世界だ。あとは楽することを許さない親族の口を塞ぐか、無視するだけでいい。

ぼくや妻が食べたいものがある日は、息子にプレゼンテーションをして、息子に決定してもらっている。こうやって日常の中で好きなものを主張したり、好きなものを選ぶ能力や、決断する能力を養いたいという思惑もある。

先日、息子がケンタッキーが食べたいといったので、チキンが6ピース入ったセットをウーバーで注文した。

個人的な好みと考えだけど、ドラムとサイがケンタッキーの当たりだ。鶏とカーネルサンダース氏には申し訳ないけど、キールとリブはハズレだとおもっている。ケンタッキーサイドだって意識しているのだろう、メニュー写真にはドラムばかりが使われ、キールはほぼ使われていない。

ウーバーでケンタッキーを注文するときは、当たりとハズレの組み合わせで大吉から大凶まであるおみくじだと考えるようにしている。うちの近所のケンタッキーはウーバーで注文をすると、あまり当たらない。以前2ピースのセットを注文して、キールとリブだったときは大凶だった、そんな日だってある。ほんと鶏とカーネルサンダース氏には申し訳ないんだけど。

期待をせずに6ピースのセットを注文すると、ドラムが2本も入っていてこの日は大吉だった、そんな日だってある。おもわずウーバー配達員にチップをおくった。ドラムを入れてくれたケンタッキーの店員さんにもチップをおくりたい。

妻が1本のドラムを息子のお皿にのせて、もう1本のドラムをぼくのお皿にのせた。いやいやいや、ドラムが美味しいんだからとぼくが妻のお皿と交換すると、妻は「いいの、食べて」と遠慮をする。

そのやりとりをみた息子が「じゃあ、ゆうくんのあげるよ」といいだした。妻がダチョウ倶楽部のメンバーだったらここでドラム2本を総取りできるのだけど、妻はダチョウ倶楽部のメンバーではないので遠慮していた。

今月、キミと優くんの誕生日だから

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“秋茄子は嫁に食わすな”ってことわざがぼくは好きじゃないんですよ。美味しいものは食わすなっていう嫁いびり感があるじゃないですか。秋茄子を食べると体が冷えるからって説もあるけど、ぼくはいままでに秋茄子を食べて寒くなったことはないし、もしも寒くなるなら温かい豚汁でも一緒に作ったり、お茶でもいれればいいじゃんっておもうんですよ。

ぼくの価値観では美味しいものは、キミや優くんに食べてほしいんだよね。嫁いびりしている人は別として、普通はそうだとおもうんですよ。自分でいうのもあれだけど、ぼくはいままでに美味しいものをたくさん食べてきたんです。

鶏だっていままでに自分で何羽も捌いて食べてきたし、大人になってから好きなものばかり食べているから、必然的に美味しいものしか食べていません。

キミはキミで美味しいものを家族に食べてほしいのだろうけど、3人家族で2本のドラムを譲り合ったのは、ぼくとしてはいい経験でした。場合によっては奪い合っちゃいそうじゃないですか。ドラムの譲り合いでは結局ぼくがドラムを食べたけど、キミに美味しいものを食べてほしいんだよなぁ。

美味しいお店をいくつか知っているけど、子どもが入りにくいお店もあるので、優くんをあずけてふたりで一緒にいきましょう。

楽することを許さない人って苦労させたいだけだから無視でいいのよ。きっとそういう人が“秋茄子は嫁に食わすな”っていってるんでしょ。体が冷えることを心配するようで、いびっているだけだとぼくはおもっています。

これを現代的に子育ての世界で変換すると“子育てを楽させるな”ですよ。子どもの成長を心配をするていで、親をいびってるだけだよ。今月、キミと優くんの誕生日だから美味しいものを食べましょう。

また書きます。

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だから本当にありがとう|幡野広志「ラブレター」第39回

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今日はケーキを買って帰ります|幡野広志 連載「ラブレター」第17回

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幡野広志

幡野広志

はたの・ひろし

1983年生まれ。
写真家・猟師。妻と子(2歳)との3人暮らし。2018年1月、多発性骨髄腫という原因不明の血液の癌(ステージ3)が判明。10万人に5人の割合で発症する珍しい癌で、40歳未満での発症は非常に稀。現代の医療で治すことはできず、余命は3年と診断されている。 https://note.mu/hatanohiroshi