妊娠はするものの流産や死産を繰り返す「不育症」。原因が分かれば治療法が分かる場合もあるが、検査するもまったく異常なし。そして現在まで、いつか奇跡的に出産までたどり着けることを信じて、ただひたすら子づくりに励む日々が続く。そんななかで見つけた、養子縁組という、もうひとつの“母になる方法”。そんな43歳の編集者&バンドマンによる不妊治療と養子縁組の泣き笑い日記。連載38回、妊娠5週・7週の妊婦健診。
着床出血が止まらない?
凍結していた最後の胚盤胞は、ちゃんと私の子宮に収まってくれた。
これで最後かもしれない妊娠。なんとしてでも継続させなくちゃ。
しかし、判定日の翌日も出血は止まらない。
鮮血ではないが、茶色いシミが点々と下着(パンティライナー)につく。
トイレに行くたび、下着を見るのが怖い。
「着床出血だから気にしなくていい」
「できるだけ安静にしてください」
先生の言葉を信じて、気にしないように、安静にするように、……したいのだけど、撮影やら取材やら、スタジオ練習やらライブやら、あっちだこっちだと落ち着かない。
そりゃそうだって感じだが、立った状態で腹に力を入れて歌ったりオルガンを弾いたりすると、止まりかけた血がまたじんわり滲んでくるようだった。
かと言って、メンバーに心配をかけたくないし、妊娠のことは言えない。
それでも立ったままでは体に負担がかかるのが明らかなので、メンバーには「飲みすぎて、下痢になってもうた」とか言って、座って演奏することを許してもらったりもした。
判定日から1週間ほど経って、ようやく家で作業できる日があり、出血も落ち着いた。
と思ったら、ちょっと洗濯物を干しただけで、また出血。
ハァもういくらなんでも血が出過ぎだ。もうダメだ、きっとダメだよ。
血を見るたびに絶望感が募っていった。
へんなかたちの胎嚢
そして判定日の10日後、5週1日目の妊婦健診。
ダメだと思っていたけれど……胎嚢が確認できた。
でも、モニターに映し出された胎嚢は、なんだかへんなかたち。
2つの丸がくっついたみたいな……。
「双子かもしれない。でも胎嚢に水が溜まっているのかもしれない」
「今は小さいのでなんとも言えないので、2週間後の心拍確認まで様子を見ましょう」
先生の説明はこうだった。
双子! 妊娠7回目にして初めてのパターン!
体外受精でも、そんなことがあるんだ……と驚いた。
うまくいけば子ども2人を同時に抱っこできるかもしれない。
でも、多胎児の死産率は単胎児の2〜5倍、脳性麻痺は5〜10倍と聞く。
無事に育つだろうか、出産できるだろうか。考えれば考えるほど怖い。
いや、考えても仕方ないし考えないようにしたい、けどどうしても考えてしまう。
その後も出血は点々と続き、やがて数日間止まったと思ったら、6週1日目でまた出血。
子宮あたりがチクチクと痛い……わたしの子宮の中、なにが起こってるの?
そんなこと考えても仕方がない! とにかく安静にすべし!
寝ても覚めても、くっついた2つの胎嚢のことが頭に浮かび、浮かんでは沈ませるために本や漫画を読んだ。浮かんでは沈め、沈めては浮かぶ……なんだか忙しい。
そして7週1日目。心拍は確認できるか。
夫婦でKクリニックへ行き、受付をしたら、その日の番号は219。
フイク(不育)なんて、よりによってこのタイミングで、なんと不吉な!
……そう思ったけど、口に出したら実際に不吉なことが起きそうなので黙っていた。
1時間ほど経って、内診室へと呼び出された。
検査台に上がると動悸が激しくなって、自分の心臓の音が聞こえるようだった。
モニターに2つの円が見える。でも、心臓っぽいものは見えない。
ダメか……。
先生が子宮内をゆっくりと確認する。
「あ、動いてますね」
見逃してしまうほど小さな心臓が静かに、本当に静かに動いていた。
続きは第39回にて。
写真のこと:夫の実家に帰省した折に、同じ顔した仔猫5匹に出会った。近くで野良猫が子どもを産んだらしい。一気にそんな数の命を生み出すって、母猫はすごいな。ちなみにこのコはだいぶ育ってますが5匹のうちの1匹です。
吉田けい
よしだ けい
1976年生まれ。編集者・バンドマン。2010年、6歳下の夫と婚前同棲をスタートして早々に、初めての妊娠&流産を経験。翌年に入籍するも、やっとの妊娠がすべて流産という結果に終わる。その後、自然妊娠に限界を感じ、40歳になる2016年に体外受精を開始。2018年11月、構成・編集を手がけた書籍『LGBTと家族のコトバ』(双葉社)を出版。