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家族で来た冬の知床で。|幡野広志 連載「ラブレター」第24回


2017年末に余命3年の末期癌と宣告された写真家の幡野広志さん。この連載は、3歳の息子と妻をもつ36歳の一人の写真家による、妻へのラブレターである。

クリスマスには、お父さんがいなくなる

コピーライト 幡野広志
「いい子にしているとサンタさんがやってくるよ。」そんな言葉をあちこちで耳にする。ラジオでもテレビでも、クリスマス前になると急にいわれだす言葉だ。息子は耳のタコがサンタになるほどいわれているんじゃないだろうか。

最近、ぼくは神父さんと友達になって、人生ではじめてミサを見学させてもらった。「クリスマスはどんな悪い人にもやってきてくれる、それをよろこびましょう。」そう神父さんが信者さんに教えていた。

あぁそうだ、誰にだってクリスマスはやってくるのだ。“いい子にしていると〜”というのはただの大人の都合だとおもう。マリア像であたまを殴られたような気分になった。

去年と一昨年、2年連続でぼくはクリスマスと年末年始は病院ですごしている。ハワイですごしているみたいなトーンでいったけど、病院が好きで入院バケーションしているのではなく、体調不良でいたしかたなくだ。

今年のクリスマスも入院してしまうんじゃないかと不安になった、2度あることは3度ある的なアレだ。冷静になって考えれば、そんなことは起きない。入院しない可能性のほうが高いだろうけど“不安”というのは怖いもので、ついつい悪いほうを考えてしまう。

いい子にしていれば…なんてことも考えたことがあるけど、キリスト教徒でもない極東の島国の病人に天罰をあたえるほど神さまもヒマじゃない。

おおきな病気になると神さまからの天罰であると考える人がたくさんいる。神さまはそんなにヒマじゃないだろうけど、神さまはもしかしたらオレのせいにしとけっておもってるかもしれない。

3歳の息子は、お父さんとクリスマスをすごした記憶がない。もしかしたらクリスマスは、お父さんがいなくなる時期として捉えているかもしれない。いまこの原稿をクリスマスの夜に書いている、場所は北海道の知床だ。

知床の病院に入院してるわけじゃない、家族で知床旅行をしている。

子どもは大人の表情をよく読んでいる

コピーライト 幡野広志
「君って飛行機に搭乗するの何回目?」って北海道に向かう機内で何気なく質問したら「これで2回目、1回目は新婚旅行の台湾。」という答えにぼくはちょっと衝撃を受けました。

搭乗回数のおおさで優劣があるわけじゃないけど、ぼくは今年だけで10回以上は搭乗したとおもいます。新幹線もたくさん乗っていろんなところに行ったけど、君の人生2回目の飛行機ということで、家族旅行をしていなかったんだろうなっておもいました。

そして君に子育てを任せっぱなしなんだよね、ごめん。そして自由に好きなことをさせてくれてありがとう。

車ではそれなりに出かけているとおもうけど、短時間で長距離を移動できる飛行機はやっぱりラクです。

むしろなんでここまで飛行機をつかった旅に君をつれていってあげなかったんだろう? って北海道で雪一面の景色のなか運転をしながら考えていたのだけど、たぶん台湾で君のことがめんどうだと感じたんだろうね。たしか台湾でケンカして、ぼくは2度と君と一緒に海外にはいかないと心に決めた気がするんです。

優くんははじめての飛行機でちょっと緊張していたけど、怖がって泣くことも騒ぐこともなくて、これならどこにでもいけるなぁという感じがしました。機内で不安そうな表情でぼくを見ていたのでぼくは笑顔でかえすと安心したのか、優くんも笑顔になっていました。

「お父さんが去年のクリスマスに入院してたときに不安だった?」って優くんに聞いたんです。やっぱりすごく心配だったのか、くもった表情で「うん」っていってました。なんだかんだと病人らしく今年は3回ほど入院したけど、そのたびに不安だったんだろうね。

子どもは大人の表情をよく読んでいるのだとおもう。だからこそ大人が余裕をもつことって大切だよね。そういやキャビンアテンダントさんっていつも笑顔だわ。

“クリスマス=お父さん入院”という不安をたのしい思い出で上書きをするように北海道まできたけど、きて正解だったとおもう、ちょっと寒いけど。

雪だるまが作れないぐらいのサラサラの雪で優くんは鼻を赤くして遊んで、野生のキツネを見つけてはぼくに「おとーさんキツネはコンコンってなくんだよ」って教えてくれた。キツネはコンコンってなかないとおもうけど、そんな無粋なことはいわずに笑顔でかえしました。

今年も笑顔ですごせたので、来年も笑顔ですごしたいです。

また書きます。

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ずっとそばにパパはいるよ。|幡野広志 連載「ラブレター」第23回

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3人で、いただきますをしよう|幡野広志 連載「ラブレター」第1回

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幡野広志

幡野広志

はたの・ひろし

1983年生まれ。
写真家・猟師。妻と子(2歳)との3人暮らし。2018年1月、多発性骨髄腫という原因不明の血液の癌(ステージ3)が判明。10万人に5人の割合で発症する珍しい癌で、40歳未満での発症は非常に稀。現代の医療で治すことはできず、余命は3年と診断されている。 https://note.mu/hatanohiroshi